第10話

「率直に申すなら、あなたのやり方はどこかで掛け違えてしまっているのかもしれない」

「そうでしょうか?」


その一言を聴いた途端に、背筋が凍っていくほどの冷ややかな気圧がのしかかるようにも思えてきた。俺は続けて八人目から十二人目の被害者たちの経緯について聞きだしていった。


「八人目の方は自殺願望の強い女性でした。その晩僕は彼女の家に案内され、急遽殺される前に肉体関係を結びたいと言いだし、彼女の部屋で行為に及んだんです」

「何故止めようとしなかったのですか?」

「最高潮に……つまり絶頂に達した時に自分の首を絞めて殺してくれと言ってきたんです。やるだけの事は行いました。その途中である事に気がついたんです」

「何をだ?」

「僕が彼女の身体に自分の陰茎を挿れようとした時、相手の体内から経血が噴き出したんです」

「それでも行為をしていったのか?」

「ええ。やめてほしいといってきましたが、赤く染まった血の色が何とも言えないくらいに綺麗で、シーツ一帯をマーブル模様に広がっていき、湖の水面が輝いていくように見えて、それに興奮を覚えて、その勢いで両手で経血をすくいあげて自分の頬と彼女の乳房に塗りたくっていったんです」


「それから、どうしていったんだ?」


「綺麗だよって囁いてあげると、不安定な幼心が濾過ろかされて、従順な身体へとシフトしていって……甘くけがれた膣の中にそれを挿れて、徐々に激しく揺すっていくと彼女から先に絶頂になって、その後にその反動で首を絞めて窒息させました。意識のないうちに服を着て、あらかじめ持ってきた縄でその裸体を雁字搦かんじがらめに縛り付けて天井に着いてあったフックに通してつるし上げていきました」


俺は自分の口元を押さえて前かがみになり机の上に腕をつけた。


「つまり、縄でつるし上げたまま更に刺し殺していったと?」

「はい。彼女の裸体は少女のように美しくて、他の男に傷をつけられるにはもったいないと考え、僕が鮮やかな絵画のようにナイフで刺していきました」

「その時はどういう心境でしたか?」

「新たなる耽美な作品だと感動を覚えました。自分もやればできるんだと誰かに褒められたいくらい喜んでいましたよ」


淡々と犯した罪を語っていく姿勢はもはや奇獣そのもの。咽るほどの血生臭さがこの一室をも漂わせ、有機質の塊そのものが重力を圧迫し続けていく。次に九、十人目の被害者について話を聞いていった。その二名に関しては十七歳の双子の兄弟だったという。


「彼らの母親から呼び出されたんです」

「どうやって知り合った?」

「投資家仲間に既婚者がいて、その子ども達が手に負えないからとどうすれば話せるのかと相談をされたんです」

「それでそう接触していったんですか?」


「自然に振舞うよう指示されたんで、ファミレスで父親と一緒に昼飯を食べたんです。聞いたところ彼らは、先天性の知的障がいを持っていたんです。周囲とうまく会話できなく、よく喧嘩に巻き込まれることも多かったようで。ただ勉強はずば抜けて成績が良かったみたいです」


「犯行はいつ行った?」


「その後、家に行きその日の晩まで一緒にテレビゲームをしたんです。僕が愛想よく振舞った分彼らも懐いてくれて、抱きついてきたその隙に背中にひと思いに刺していきました。それを見たもう片方の子どもが泣きじゃくって、僕の腕を口で噛んできたんで、振り切ると床に尻もちをついて失禁していたんです。腹にこぶしで突くと意識がなくなりその間に灯油を口に飲み込ませて窒息させました」


「障がいがあっても、彼らは期待できる子どもだったんだぞ。それをわかった上で殺しに応じたのか?」

「はい。やれと言われたのでそのとおりにしました。僕は彼らに同情の余地もありませんし、他人の子ですから将来なんて知りません」


「十一人目の被害者だが……ここの取調書に書かれているんだが、新谷さんがお付き合いされていた女性だと記されています。名前は本谷もとや塔子、当時二十九歳。カジノ経営者の父親を持つ、他称では才女だったと呼ばれていたらしいですが……」

「あれのどこが才女か……」


新谷は片方の口角を上げて笑い始めた。


「何がおかしい?」

「腰巾着と言えば古めかしい言い方ですが、ずっと父親の金にすがりながら生きてきた下衆な生き物だったんですよ。初めはこちらも気づかずに付き合っていっていましたが、家族の話を聞かされてから化けの皮を履かしていったんです」

「結婚直前まで考えていたようで?」


「それは形だけの関係でした。僕はパートナーというものを必要していないし、今後もその点については困っていないんですよ」


「この世の女性全てが軟弱者だと?」

「そうではありません。賢い方もいらっしゃいます。それに未だに巡り会えていないのが惜しいと感じることはあります。阪野さん、この際なんで、一緒にいい女探しにでも行きませんか?」

「余計な行動をとると妻に油を注ぐようなものだ。遠慮しておく」

「恐妻家なんですね」


彼は本谷と三年交際し、婚約指輪を要求されてきたのに嫌気が差してそこから音信不通にしたという。だが本谷も執拗に彼を探し続けて、当時新居として引っ越ししたばかりの現在のマンションの前に鉢合わせになり、仕方がなく部屋に上がらせてそのうちに口論となり彼女の首を絞めて意識が失ったのちに、共犯者である男を呼び都内から隣の県の防波堤がある海にビニールシートで巻き付けて沈めようとした時、本谷が意識を取り戻したので暴れる身体を数十回殴りつけた後、再び海に投げつけていったという。

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