第6話

その後、新谷は曽根を連行して山中に置き去りにしていったという。それからまもなく佐枝のところに彼が来ては、「これで安心して暮らせるから大丈夫」だと告げてきたという。


「私はどうして曽根さんを置いてきたのかを尋ねたのですが、琴音がを知る時神は君に背を向けてしまう。答えを知らない方が穏やかに暮らしていけるから心配するなと言っていました」

「真実を知る……そこがネックですね。できれば退院した後に新谷と会うことができればいいと思ったのですが、会うことには抵抗ありますか?」

「ええ。彼が今何を考えているのかさえ知りません。ただこれまでの殺人事件に関与していることは疑ってもいいと思います」

「新たに証言が取れれば私の上司である警部補も動くことができるんです。内密に行いますので、どうか真相がつかめるまでの間、私達警察に協力をお願いできないでしょうか?」


「いいですよ。あと、新谷さんの生い立ちって聞いていらっしゃいますか?」

「生い立ちですか?」


話の続きを聞こうとしたが看護士から面会時間が終わっているので翌日以降に訪ねて欲しいと言ってきたので、彼女に挨拶をし病院を出た後に署へと戻っていった。翌日私は再び三橋の元を訪ねて新谷の出生や上京した経緯について話を聞きだすことができた。阪野警部補は私が話した内容について、後日新谷に面会の時間を設けてもらうように相談すると、許可をくれた。



生島から新谷の事情聴取を申し出てきたのに認めてはみたものの、奴が音信不通になっていたのでマンションへ彼女と行ってみると、部屋の中にもいなかった。


「どこか逃げたわけではないですかね?」

「いや、おそらく都内に入るはずだ。株主と会っているのかもしれないな」

「投資家だとは聞いていますが、本当にそうなんでしょうかね?」

「どういう意味だ?」

「巡査部長が言っていたのですが初回の逮捕の時に取り調べをした時に、投資に関する話をあまり話さなかったと言っていたんです。推定だとしたら他の投資家から賄賂わいろを受け取ってその金で生活をしているという話が浮上していたんです」

「あの高級マンションで住むんだとしたら、もっと金は必要だろう。自身の投資した分だけでは賄えないとでもいうのか?」

「可能性は高いとのことです」

「とにかく本人から聞きださないと、俺らの聴取も不利になる。そこは慎重に聞き出すようにしなさい」

「わかりました」


数日が経ったある日、新谷と連絡が取れ署の取調室に案内をすると、罪の意識のない悠然とした表情でこちらを眺めていた。早速俺は彼から三橋が話していた生い立ちについて聞くことにしていった。


「出身が北海道となっているが、どこの生まれになるんですか?」

別海町べつかいちょうという東側にある小さな町です」

「家族構成は?」

「父と母、弟と祖父母の六人で暮らしていました」

「家族の方と連絡は取っているのですか?」

「僕が上京をした機に離散したんです」

「何があったのですか?」


「母が漁師だった男と駆け落ちしたんです。父はしばらく母の帰りを待つようにしていたのですが怒りが達して弟を追い出した上、祖父母を殺害しました」

「亡くなった原因は何でしたか?」

「一酸化炭素中毒によるものだったみたいです。寝ている間にガスを抜いて部屋中を充満させて殺したようでした」

「葬儀には出られました?」

「父から来るなと言われたので、行かなかったです。その後に父も逮捕されて札幌の刑務所にいるようです」


「弟さんはどちらにいらっしゃいますか?」

「知らないんです。きっと彼も札幌辺りにはいるかもしれません」

「あなたが上京してから、しばらくは色々なところで働いていたと言っていましたが、具体的には覚えていますか?」


「最初は銀座でバーテンダーの仕事に就いていました。二年後にイタリアンレストランで厨房の仕事をやっていて、店で知り合った人から紹介されて、そこからリクルート社で就活生の相談窓口や就職にまつわる資料作成などやっていました。ただ……」

「ただ?」

「ある一人の男性の就活生から仕事が似合わないくせに相談役とかやっているんじゃねーよと何度か揶揄われているうちに、彼に暴行を振ったことがあり、それで三年もしないうちにそこを退職しました」


「それからどちらへ行きました?」

「パチンコ店の従業員をしていました。その時の客の中に顔見知りになった人がいて、その人物から投資に関心がないかと訊いてきたので、教えて欲しいと言ったら別の日に喫茶店に呼び出されて、その人が自分が投資家としてやっているから君も勉強でもしてみたらどうだと誘ってきたんです」


「その頃からあなたも投資家として生活していこうと?」

「はい。色々調べていくうちに為替やレート、株価の状況などに興味を持ち出して数字がどんどん面白いと欲が出てきたんです」

「稼ぎとしてはどのくらいの単価で?」

「月にもよりますが平均で七百は手元に入ってきます。阪野さんも投資に関心でも?」

「いや。あまり乗り気ではないな」

「投資家も興味がない限り手は出してはいけません。以前にもお話したように己の不屈の精神が備わっていないと続いていけるものではありませんからね」

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