第5話


私は十二人目の被害者の痕跡を追うため、その男性の遺族の家に訪れていた。室内に案内されて事情を伺っていくとある接点が見えてきた。


「では曽根さんは殺される前の日にある男性と会って金銭を受け渡されていたんですね?」

「はい。息子は借金はしていなかったのですが、それとは別に会社の同僚から金に困っているから貸してほしいと頼まれたようなんです」

「私達に相談してくれればよかったのに、単独で動いてしまったから今回の事件に巻き込まれたんだと思います。刑事さん、ミハシという人物は知っていますか?」

「ミハシ?」


被害者男性の母親が自分のスマートフォンを持ってきて、男性とのやり取りのメールを見せてくれた。そこには会社の同僚だというミハシという女性と結婚前提で付き合うことにしたから紹介をしたいという内容の文面が綴られていた。


「この女性とお付き合いをされていた期間に、息子さんが殺されていた。そういう事になるのですが、経緯は息子さんから伺っていましたか?」

「それが亡くなる前の日にミハシという女性と金銭の件で口論になったらしく、婚約も解消しようかと息子が言ってきたそうなんです。このメールにもそのことが送られてきたんです」

「では、彼らはそのもつれがあって加害者の男性に呼び出されて殺された。ミハシという方も関与している可能性も高くなってきそうですね」

「あの子は常に誠実で誰とでも親しくなるような中立的な人柄でした。今回の件で巻き込まれたことが本当に悔しい」

「鑑識はまだかかるのですか?早く息子を私達に返してください。葬式をあげてきちんと成仏させてあげたいので……お願いします」

「私からも上部の人間に伝えておくので結果次第すぐにご連絡いたします」


署に戻った後係長にこの件を伝えると、被害者男性の会社に向かって事情を聞いてきてくれと告げてきた。その足で勤めていた広告代理店へと向かい、複数の社員に話を伺うと、ミハシの名前が浮上してその中の一人の社員がこう告げてきた。


「たしかに曽根さんという男性とは付き合っていました。ただ、何て言ったかな?新……谷なんとか?その男性とも関係を持っていたという噂が社内にも出回っていたんです」

「新谷ってこの男性で間違いないですか?」

「ああ……ちょっと顔は知らないんです。新谷って人の下の名前がマヒロっていっていたかな。はっきりと覚えていなくて申し訳ないんですけど、話はそこまでしか聞いていないんです」

「ご協力ありがとうございます」


新しい証言がつかめたところで新谷の身元を新たに聞き出せるチャンスだと思った。阪野警部補にもこの旨を伝え署に戻ったが、もう一人の警部補がそれだけでは新谷を呼び出すことはできないと言ってきた。


「新谷が吐き出せば真犯人の佐枝が不起訴になるんですよ。お願いですので、彼をここに連れてくるように承認してください」

「生島。お前まだ刑事課に来て日が浅いだろう。阪野警部補が許可しても上層部が認可しないと、新谷眞紘を署に連行するのはできん。それに、奴が簡単に首を縦に振ることもしないだろうしな」

「どういうことですか?」

「捜査本部で今事件と関りがないと断言している。新谷の指紋すら見つからなかったし、今更ここに呼び出したところで不利になることがある。奴の事は一旦離れてそのミハシという女性をここに呼び出してくれ」

「え、あの……」


私の行動が無駄だとでもいうのだろうか。女性であるからと言ってまるでその身分を隔てているかのようにも感じてしまった。気を落としている場合ではないと気持ちを切り替えて、ミハシの自宅に向かっていった。インターホンを鳴らししばらくドアの前で待っていたが出てこなかったので、ドアノブを開けて見ると鍵がかかっていなくて、ゆっくりと開けるとガスの漏れている異臭が室内を充満させていたので、ベランダの鍵を開け窓ガラスを全開にして、名前を呼びながらバスルームへと入ると一人の女性が倒れていた。


「ミハシさん!ミハシさん、警察です。わかりますか?」

「はい……助けて、ください……」


ミハシを救急搬送し数時間が経ったころ、病院の内科病棟の一室で眠っていた彼女が目を覚まし、私は声をかけると泣きながら腕につかまってきた。


「○○警察署刑事課の生島といいます。三橋琴音さんでよろしいですか?」

「はい」

「ご気分はいかがですか?」

「まだふらつく感じですが少し眠ったので先程よりは大丈夫かと……」

「率直にお尋ねします。新谷眞紘という男性と、お知り合いでしょうか?」

「はい。あの人が何かありましたか?」

「○○県で起きた無差別殺人事件の関与をしていたのですが、別の容疑とみられる人物が見つかったので先日保釈されたのです」

「十二人殺しの事件ですか?」

「ええ。ただ証言から犯行に及んだとみられる痕跡がなかったので、釈放したのです」

「それ、違います」

「どうしてそう言えるのですか?」

「事件の当日の日中に私に向かってある言葉を言ってきたんです」

「何といってましたか?」

「神は僕を冒涜ぼうとくした。その反逆をこれから実行する。琴音、曽根を呼び出してくれ。そう言われたので曽根さんを電話で呼んで、新谷さんに替わるとこれから車で迎えに行くから家で待っていろと言っていたんです」

「三橋さんは自分の家にいたのですか?」

「初めはついて来いと言ってきたのですが、嫌な予感がして行かないと刃向かったんです。そうしたら頭を数回平手打ちされました」

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