第4話
「ところで、今の職業が投資家と伺っていますが、投資している企業の株価はどうなっているのですか?」
「リーマンショックみたいなことが起こらなければ安定はしているかというところです」
新谷は高校を卒業後、いくつかのアルバイトをしていきながら投資に関する知識を独学で身につけて行き、二十代の終わりごろに知り合った人物と出会ったきっかけで投資家として事業についていったという。
「それを続けていける秘訣とは何でしょうかね?」
「あなたも投資にご興味でも?」
「いえ。新谷さんがなぜそこまでしてその職業に入り込んでいったのかが気になったんです」
「秘訣か。数字に関しては昔から得意で、それとなく興味を持つようになり、色々教わっていくうちに本職にしようと決めました。まあ関心と忍耐でしょうかね。僕は現実主義でもありますから、なので性に合っているのかもしれません」
「そうですか……これから署に戻るのでこれで失礼します」
「まだ来たばかりですよ。そんなに急ぐことででも?」
「警察の人間にはほとんど休みがないようなものです。今こうしている間にもいろいろな場所で事件は起こっていますから」
「人間ってどうしてそんなに泣きわめいて自分の在りかを伝えてくるのでしょうね?」
「加害者や被害者それぞれに思いがあるのだと思います。では……」
この部屋の空気か異様に心地よい感じがして何かに惑わされそうに足を引っ張られそうになった。マンションを出て警視庁に向かい鑑識課に立ち寄ると、鑑識官から十二人目の被害者の遺体からあるものが検出されたと言ってきた。鑑識室の中に入り専用の手袋を履き遺品を見ていくと、渡されたものの中に万札と見られる紙屑が胃の中に入っていたという。
「通常の紙でできたものを詰め込まれるのはよく見られるのですが、お金を飲み込まされるってあまり例がないのでどういう意図で行為に及んだのかそこを調べていただきたいんです」
「要は、金に困っていない人間が、その被害者の身体に無理矢理詰めたというのか……」
「そういう事も考えれらますね」
俺は署に戻り捜査室の机に新谷の写真と万札の紙屑の欠片を並べて、観察していた。真犯人の証言が実証されると奴のアリバイも認められる。そうはさせるか。これまでの被害者の遺体の中に胃の中に異物が混入していることが一致しているのに、その実行犯が新谷眞紘でないというのが納得ができない。先程マンションを訪れた際もあれほどの冷静さを見せつけていたのもどこか奇妙な感じがする。
一人目の被害者はマンションの地下の駐車場で、乗用車のトランクルームの中から変死体で発見。死因は練炭から出た一酸化炭素中毒によるものとされた。
二人目から七人目は警視庁から半径百キロ圏内に位置するそれぞれのアパートで練炭自殺に見せかけた殺害を実行。八人目から十一人目は実行犯からの指示で動いた共犯者による刺殺として、その共犯者も既に逮捕されている。
そして十二人目が県外の山中で顔の全面を鈍器のようなもので抉られて殺害された。
ほぼ同一犯の実行と推定されているのに新たに女性の真犯人が現れたというのは想定外だった。新谷の写真を眺めながら彼に問い、なぜここまでして犯行に及んだのかを炙り出さないと彼も本当の事を話してはくれないだろう。
◇
その頃私は、阪野警部補が帰っていったあと、今回の事件の状況が気になりパソコンから各放送局のチャンネルをつけてニュースを見ていると、新たな真犯人だと自供していたあの佐枝美麗の生い立ちが取り上げられていた。
実業家の両親の元で裕福に生まれ育ち、エスカレータ式の大学を卒業後、一流企業で名声を上げていたらしく、その一方で異性関係に問題を起こすも全て親が裏で取引をして隠蔽していたという。
その仇が今回の事件の引き金となり関与した疑いで捕まったと報じている。
佐枝は私とは顔見知りだ。
あれは六人目の作品だった。彼女に練炭を持ち運ばせて恋人だった男の家に侵入させ、練炭に火をつけて家を出てから数時間後に男は焼死体となって発見された。その後佐枝は私のマンションに来て身震いをしながら人を殺したことを後悔していると話していた。
「新谷さん。どうか私が捕まらないようにしてい欲しい。彼を殺すことを考えたのはやっぱりどうかしていた」
「佐枝さん。もうその男性はあなたの元には帰ってきません。その彼からの虐待という呪縛を解くために、何とかしてほしいとあなたが申し出てきたじゃないですか。僕に頼んだことは全てうまくいくんです。これを見てください……」
私は彼女に聖母マリア像の模型を見せた。
「この方の像をあなたに差し上げます。毎日この方にむかってお祈りしてください」
「私は仏教です。キリシタンではないのに、どうしてこれを?」
「創造主を通してマリア様はこの世とつながっているのです。そこに仏教は通さなくてもあなたの味方でいてくれる。それから、これからは教会に行って礼拝を受けてきてください。主があなたのしたことを報いこの世に生きる意味を伝えてくれるよ」
「お祈りすれば、余計なお金も払わなくて済むのかしら?」
「ええ。彼に貢いでいた分の金額は僕が請け負いますので、今度通帳と印鑑を持ってきてください」
「私の日常はきちんと元に戻れるんですか?」
「全てはあなた次第です。これからの正常な行いを続けていけば今回の悪事はすべて消え去っていきます。どうか自分を信じてあげてください」
「全ては私次第……」
「もうすでにマリア様とあなたはつながっていますよ。安心してお家に帰ってください。僕もアリバイを作りますのでそこは任せてください」
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