762

口羽龍

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 ここは衣武(きぬたけ)。古くから栄えた港町で、この辺りには工業地帯が多い。多くの貨物船が行き交い、とても賑わっている。だが、工業地帯を少し離れると、のどかな田園風景が広がり、そこから少し歩くと、衣武駅がある。この衣武駅は戦後に開業した駅で、歴史は浅いが、衣武の中心駅として賑わっている。


 海に近い場所にある公園で、何人かの男の子が遊んでいた。彼らは小学生だ。その中の1人、治文(はるふみ)は地元の工場で働く父、明(あきら)と専業主婦の母、沙也(さや)の間に生まれた。この町の事はあまり知らないが、明るく楽しく生きている。


「はるちゃん、こっちこっち!」

「わかったよ!」


 治文は公園で遊んでいた。その公園は、今から40年ぐらい前にできたもので、子供たちの遊び場になっている。


「うわっ・・・」


 突然、治文は何かに足を取られた。明らかに土ではない何かだ。治文は首をかしげた。


「大丈夫?」

「うん。ごめんごめん」


 仲間が心配してやって来た。幸いにも治文にけがはなかったようだ。治文はすぐに立ち上がった。


「いいよ」


 その時、午後5時のチャイムが鳴った。もう子供は帰る時間だ。子供たちはそれに反応した。


「あっ、もう時間だ。帰らないと。ごめんね」

「いいよ。じゃあね」


 子どもたちは帰っていった。だが、治文はなかなか帰ろうとしない。最近、公園が気になっている。公園から、木や鉄が見つかっている。とても気になる。


「いてて・・・。あれ? 何だろう」


 治文は土を掘り起こした。土に違和感がある。何が埋もれているんだろう。とても気になる。


 しばらく掘り起こしていくと、レールが見えてきた。そのレールは赤さびている。もう何年も使われていないようだ。


「レ・・・、レール?」


 と、そこに沙也がやって来た。なかなか帰らないようで、心配したようだ。


「はるちゃーん、何してるの? 帰る時間だよー」

「はーい!」


 その声を聴いて、治文は家に帰った。帰り際に、治文は公園を見ている。公園から見つかったレールが気になるようだ。




 その夜、治文は食卓で、何か考え事をしていた。すでに今日の夕食のカレーライスを食べ終えていて、リビングに行くはずが、ダイニングにいて、何か考え事をしている。明らかに普通じゃない。何かあったんだろうか?


「どうしたの?」


 沙也は治文の表情が気になった。何があったんだろう。知りたいな。


「公園で、レールを見つけたんだけど」

「レール?」


 それを聞いて反応したのは明だった。何かを知っているようだ。


「お父さん、それでどうかしたの?」

「治文、これは俺の父さんから聞いた話だが、あの公園って、軽便鉄道の終点だったって知ってるか?」


 あの公園は、ここを走っていた衣武鉄道の終点、衣武港のあった場所だ。衣武鉄道はレールの幅が762mmの軽便鉄道だ。明治時代の末期に開業し、この町の発展に大きく貢献した。だが、現在の衣武駅がある鉄道が開業したことによって、利用客が減少し、今から半世紀近く前に廃線になったそうだ。


「えっ、本当?」

「うん。ここにはいろんなのがあったんだ。駅舎にホームに転車台に。だが、まだ遺構があったとはな」


 まさか、衣武鉄道の遺構が残っていたとは。明は驚いた。


「まさか、あのレールって」

「きっと衣武鉄道の遺構だろう。もう半世紀近く前に廃止になったんだけどね」


 明は乗ったことがない。遺構を全く見た事がない。ぜひ見たいな。


「そうなんだ」

「明日、そこを掘り起こしてみよう」

「うん」


 明日は休みだ。あの公園の土をもっと掘り起こしてみよう。何があるんだろう。もっと詳しく知りたいな。




 翌日、2人はその公園にやって来た。公園には誰もいない。まだ誰も遊びに来ていないようだ。とても静かだ。


「この砂場?」

「うん。あっ、そういえば、丸いな。まさか、転車台かな?」


 その公園を見た時、明は思った。あの丸い部分、どこか転車台に似ているな。ひょっとして、衣武港駅にあった転車台をそのまま転用したものだろうか?


 それを聞いて、治文は京都鉄道博物館にある転車台を思い出した。あの転車台は大きかった。転車台の周りの車庫には、何台もの蒸気機関車が留置されていて、壮観だったな。また見てみたいな。だけど、このサイズの転車台って、小さくないかな?これを使う機関車って、小さいんだろうか?


「言われてみれば、転車台っぽいよね」

「掘り起こそう!」

「うん!」


 2人は公園の土を掘り起こした。掘り起こすと、だんだん中が見えてきた。昨日見たレールだけでなく、橋のようなものが見えてきた。まさか、転車台がそのまま保存されているのでは?


「えっ、えっ、まさか、これは?」

「やっぱりこれは転車台だったんだ」


 やっぱりこれは転車台だった。京都鉄道博物館で見たものに比べてとても小さい。軽便鉄道の転車台って、こんなものだったのだかな?


「京都鉄道博物館で見たのに比べてとても小さいね」

「ああ。軽便鉄道の機関車はみんな、小さかったからね」


 軽便鉄道は何もかも小さい。機関車も、客車も、貨車も、すべてが小さめだ。少ない予算でできるなどから全国各地で作られた。だが、スピードが遅いがゆえにレールの幅が1067mmもしくは1435mmになったり、廃止になったという。そして今では、三重県と富山県に残るのみだ。


「そうなんだ」


 とそこに、昨日遊んでいた子供たちがやって来た。公園の土を掘り起こしているのが気になったようだ。


「あれっ、はるちゃん、どうしたの?」

「公園の土の中からこんなのを見つけたんだ」


 治文は横に動いて、子供たちに掘り起こした転車台を見せた。子供たちは驚いた。公園の土にこんなのが埋もれていたとは。これは大発見だ。


「えっ、何これ?」

「よくわからないけど、軽便鉄道の転車台かもしれない」


 子どもたちは首をかしげた。この子供たちはここを走っていた軽便鉄道の事を知らないようだ。


「ふーん。ちょっと、調べてもらおうよ」

「うん」


 掘り起こした遺構は、町の人に調べてもらう事にした。一体、その遺構はどうなるんだろう。また埋もれてしまうんだろうか? それとも、このまま保存されるんだろうか?




 翌日の学校帰り、治文は友達と一緒に帰り道を歩いていた。何にも特別な事のない、いつも通りの日だ。帰ったらゲームをして、勉強をしよう。


 と、公園の前に差し掛かった時、彼らは驚いた。転車台の辺りに人だかりができている。掘り起こした転車台に何があったんだろう。


「えっ・・・、どうしたんだろう」


 治文は転車台にやって来た。みんな写真を撮っている。彼らは鉄道関連の服を着ているので、鉄道オタクたちだろう。


「写真を撮ってる」

「どうしたの?」

「軽便鉄道の遺構を撮ってるんだよ」


 ある鉄道オタクは笑みを浮かべている。鉄道の遺構を見るだけでも、ワクワクしてくる。ここに鉄道があり、その遺構が残っている。それだけでも素晴らしいと思っているようだ。


「まさか、こんなのが残ってたとは」

「これはきっと、町の産業遺産になるぞ」

「さ、産業遺産?」


 治文は驚いた。ただ、偶然見つけただけなのに、こんな事になるなんて。とんでもないものを発見してしまった。

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762 口羽龍 @ryo_kuchiba

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