個性のない作品なんて消した方が良いこともある

 これまで所謂「ライトノベル」について、そして小説全般の書き手について批判的言論を繰り広げてきた本作だが、もう少し実践的な話をしたい。


 読者の皆様は、小説を書く上で最も重要なことは何だと思うか。「表現や語彙の幅」「扱われるテーマの面白さ」「秀逸なストーリー構成」「作品設定の創りこみ」「情景・心理描写の緻密さ」「キャラクターの個性」「書きたいものを書く自由」「読み手の読みやすさ」などなど、千差万別、十人十色のこだわりがあるのだろう。そのどれもが正解である反面、それだけが全てではないというのが、小説という文芸作品の奥深さだ。


 では、我々は以上の諸条件を網羅的に意識し、完璧な作品を創り上げることができるのか。答えは否。どんな一流作家であろうと「○○の項目には秀でているが、○○は苦手としているな」と、一長一短あるものだ。例えば、登場人物の知性が求められるミステリー小説においては、地の文や主人公の会話の端々に難読漢字・難解表現を織り交ぜつつ、知的な文章を作ることが必要だと考えるが、それでは読者の読みやすさは両立できない。対して、若年層向けのファンタジーなどを取り扱うライトノベルなどでは、万人にとって分かりやすい表現とストーリーの面白さ、そして展開毎のテンポを重視する必要があるため、場面ごとの具体的な情景・心理描写はある程度割愛されるというジレンマを抱えている(理解が促進されるように敢えて極端な例を出しているが、個々の作風によりけりなので、実際はこの限りでない)。


 前者は「取っつきにくいが読み応えはある」一方で、後者は「取っつきやすいがあっさりしている」というのが、僕の持論だ。どちらが良いという訳でもなく、どんなストーリーを小説にするとしても、何かに特化するということは、何かを捨て去るということでもある。これが言いたいのだ。


 どうせ何かを捨て去ることになるなら、何かに特化した作品を書きたいところだ。では、改めて問うが、読者の皆様は、小説を書く上で最も重要なことは何だと思うか。言い換えれば、小説を書く上で最も意識していることは何か。


 今ここで明確な答えを持てない作家諸君、その作品は一から書き直すことをお勧めする。残酷なようだが、仮にその作品が100話だなんだと進んでいようが、即削除を推奨する。


 「あ、やっぱり、今思い返せば私の作品はここに特化している!」と、無理やりにこじつけてもダメだ。こだわりのないままに書いた作品になど特化している部分はないし、それは後から自分の書いた作品に対する自らの贔屓目によって都合解釈しているだけなのだから。


 いやいや、何もこだわりなんかなくたって、面白ければ良かろうだって? まあそうかもな。平凡な顔面している奴でも、どういう訳かモテるやつはモテる。羨ましい限りだ。だが、異様に鼻や耳が大きかったり、髪が異常に長かったりする人とすれ違ったら、最低でも二度見はしてしまうだろ。そういうもんだ。個性ってのは、最大の武器にして最強の魅力的要素なんだよ。


 「私には誰にも負けないと自負するこだわりがある!」と鼻息荒くしているやつも、慢心はするなよ。そのこだわり、ただの思い込みである可能性もあるからな。自分ではこだわり抜いたと考えている設定も、実は誰かが先に思いついて作品を書いているかもしれん。「うちは老若男女に優しい読みやすさがウリの小説だ」と考えているやつも、平仮名ばっか使って逆に読みずらいとか、軽快にストーリーが進み過ぎて読者が置いてけぼりとか、あり得るからな。折角自分が頭を悩ませて生み出した我が子のように大切な作品なんだ。その方向性が本当に正しいのかどうか、定期的なセルフメンテナンスをするように。


 別にウケたくて書いてる訳じゃないぞっていう自己満作家は、この戯言を聞き流してくれて良い。どうしてもウケたいのに自分の作品が見向きもされないのは何故だという問いに、全く答えを見出せないでいる迷える子羊たちにとって一筋の光となればこれ幸いと、文を認めた次第だ。ちなみに、僕は未だ陽の目を浴びないずぶの素人だ。話半分で聞いておくことを推奨する。


 ──おしまい。

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