第27話



「お初にお目にかかります。白家の嫡子にして陵侑と秀麗の娘、美雨にございます」



 背筋を伸ばし、腰を落とす。幼い日に、母から教えてもらった礼儀作法は自然と体が覚えていた。



「ほぅ」


 感心したようなため息が前方から聞こえた。


「白家の娘か」

「あの白家」


 銀糸装束の三人は、素早くお互いに目線を交わした。


「先代ご当主の事件を経て、今でこそ厳しい状況だが、銀狼家の門閥の中でも右腕と呼ばれた家だ。彼女の人柄は俺も保証する」



 黄蓋がわたしの肩に軽く手を置いた。彼の分厚くて大きな手のひらで、励ますようにわたしの肩を温めたあと、黄蓋は自分の席に向かった。

 がたんと音を立てて椅子をひき、堂々と座る。

 銀狼も奥の椅子に座るのだろうか?

 わたしは彼を見上げる。

 しかし、彼はわたしを引き寄せ、守るように肩を抱いて言った。



「彼女は『試しの儀式』を受けたとき、声を出すことができなかった」


「…………」


「それは皆も知っての通り、あの事件(・・・・)があったからだ」



 わたしはきゅっと目を閉じて、開いた。

 あの事件ーー父と母の死だ。



「だが、決して能力がないわけではない。むしろ、この銀狼の名において、彼女の力を守り育てなければならないと考えている」


「銀狼さま、その根拠は?」


「数年前にわたしの脚の”妖”によるケガを一晩で治したのが、彼女だからだ」


 部屋の空気がざわっと揺れた。



    ⌘ ⌘ ⌘



「銀狼さまがおっしゃることは、確かですかな?」


「はい」


 わたしはじっと自分を見つめる目を見返した。

「ならば……」


「証明して見せてもらおう」



 価値を推し量ろうとする六つの瞳。

 少しだけ指先が震えた。



「なにをすればよろしいでしょうか」


「そうだな……」


「おう、だったらもう一度『試しの儀』にしたらどうだ?」


 黄蓋がのんびりと言い放った。


「よろしいんじゃない? その娘はまともに儀式を受けてないんだろう?」


 赤毛の女性は赤い唇を開いて同意した。


「あれなら危険もないし、ね」



 そしてわたしに向かってパチンと片目を閉じてみせた。

 どうやら彼女はわたしに少し好意的な立場をとってくれている気がする。

 わたしは感謝を込めてかすかに目礼した。


「ふむ。まあ、それでよいじゃろう」


「……待て」



 しかし、決まりかけていたところに待ったがかかった。

 それは壮年の男性だった。



「儀式で力を測ることはよかろう。しかし、銀狼の妃となるのだ。ただの守護術師の下限と同じ基準で良しとするわけにはいくまい」


「……っ」


「おい!」


「おやおや」



 壮年の男以外の誰もがそれぞれの形で反応した。



「ーーでは、いったいどのような基準にすると?」



 銀狼が鋭い目つきで問いただす。


 銀狼が鋭い目つきで問いただす。


「もちろん、あなたの示す基準とやらは、守護術師となる合格基準よりさらに合理的な理由を示せるということですね?」


「ふっ」


 壮年の男は唇を歪めて笑った。


「それはもちろん」


 皮肉っぽい顔をした。



「その娘はーー白美雨殿は、銀狼さまが"妖"に受けた怪我を癒したとおっしゃいましたね。そして、それだけ強大な力があるからこそ銀狼の妃として迎え入れるということ。ならば、それ相応の力があると示さなければ」



「つまりどういうことだって?」



 黄蓋が身をのりだして男を威嚇するように尋ねた。



「"妖"から受けた怪我を治すのは、並の守護術師なら3人がかりで宝玉に力を込めて行使するほどの力。ならば、美雨殿には『守護術師の基準の3倍の値』を目指していただきたい」


「そんな……っ」

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