考古学者の日記

第51話 9月18日

さて、今回の調査前に起きた意外な事柄とその委細について記しておこう。


岩漿がんしょうの異術士ことトマ・オジエ氏とは正式に契約して大消失グランドロストの調査隊に参加して頂く事になった。これはまだ決定ではないが、彼自身が大消失の被災者である事を踏まえて、委員会を通して彼を正式な調査隊員に任命しようと思っている。


癒しの聖女ことニナ・コイヴ氏にもお会いした。黒髪を短く切りそろえた女性で、噂以上に美しい方だったが、医師や聖女というよりは元気いっぱいの運動選手アスリートのような印象を受けたのは先入観だけではないだろう。


シルヴァ・ケレ氏にもお会いした。話を聞いていた時は地味な女性をイメージしていたが、実際はまことに艶やかな人だった。長いくせ毛の金髪に驚いたように見開かれた丸く青い目、長い鼻と大きな口。個性的だが非常に魅力的な女性に思えた。


大消失当時の法王ウァレンティヌスは未だ消息不明である。個人的な推測だが恐らく助からなかったのだろうと思っている。


その聖地ノレスに侵攻したベリデオ帝国の征西軍は事実上崩壊した。第一皇子であるルードヴィヒ、第二皇子ロタールともに消息不明である。


当時の征西軍最高幹部で消息が確認されたのは第一軍団長ベニート・ヴィンチ中将と第三軍団長デレク・アウザ少将のみであるが、ヴィンチ中将は救助後に軍令違反の咎でアウザ少将により拘束され、そのまま本国に移送された。


アウザ少将が率いる征西軍は大消失以降、半年に渡ってノレスの復興に尽力したが、それも人員の喪失などで活動を続けられなくなり、本国に帰投したという。

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