第50話 全ては復興のために

トマはある程度生活が安定するとニナとの結婚を考えるようになった。それはニナもまんざらではなかったが、ニナにはニナの考えがあった。


──聖殿のみんなを助けたい

考えてみれば当然である。その時は聖殿がどうなっているのかは誰にも判らず、助けるというより弔いたいというのが本音だったのかも知れないが、まず二人を逃してくれたアイニをはじめ聖殿の人たちがどうなったのかは確認するべきだった。


「翌年に僕たちはノレスに探索に行ったんです」

聖殿の人たちは何人かが生き残っていた。残念な事にアイニは亡くなっていたが、シルヴァが生き残った人々をまとめていて何とか被災生活を維持していたのだ。


「僕たちは皆さんをここまで連れてきたんです」

それでとりあえずは区切りがついたが、そうなるとまた別の都合が発生した。


──その力こそ真の聖女の力よ

シルヴァはそう言ってニナの医療活動を後押しした。いや完全にプロデュースするようになった。わざわざローグルまで赴いて印刷屋に広告を作らせ、それを近隣の町村にバラまいてニナの知名度を大幅に喧伝したのだ。


「シルヴァさんはシルヴァさんで聖殿の復興を考えているみたいなんです」

アイニ亡き後に元聖女としての責任感が継承されたのか、とにかく聖殿復興のために彼女は頑張った。頑張り続けた。今も頑張っている。その熱意にはニナもトマも逆らえず、さらになんとなく姑みたいにあれこれいろいろ言うようになったのだ。


──今は復興が優先よ

かつてはアイニの影に隠れてどちらかというと控えめだった彼女は、しかし今や唯一の元聖女としての権威を背負ってしまったのだ。


──あなたは脱走兵なんだからここで戸籍を作りなさい

シルヴァはそう言って強制的にトマに家を買わせた。それがこの家である。


──人って成長するものねえ

ある時にニナはシルヴァをそう評した事がある。かつて聖女位の押し付け合いをした年上の従姉は、今や一族を率いる立派な大奥様になってしまわれたのであった。


「……で、現在に至る、というわけです」

トマははにかむようにそう言った。いや苦笑だったのかも知れない。


「……まあ、人生いろいろあるものさ」

ケレブはそう言ってトマ──岩漿がんしょうの異術士を慰めた。

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