第49話 もうひとりの異術士

「ちなみにその時、ニナは雷雨の異術士と名乗りましたけどね」

しかしニナの力はどちらかというと冒険より生活向きの力だったし、トマの名乗り程のインパクトはなかったので、自然とその名乗りは忘れられた。代わりにその力も含めて岩漿がんしょうの異術士の名乗りだけが独り歩きしたのだ。


「ニナは今は癒しの聖女って呼ばれて医療活動をしていますよ」

トマがそう言うとケレブは驚きの声を上げた。


「あの医者がニナさんなのか!」

ケレブ自身は会った事はないが、ここ数年で有名になった医師である。


最初の頃のニナは解毒や胃洗浄くらいしかできなかったがそれでも患者がつき、さらにその力が外科的治療におよぶと国境を越えて患者が押し寄せた。ニナは風の力を患者の体内に発生させて腫瘍などを切り取り、それを水の力で流しだすという手術方法を確立して近隣に名前を轟かせたのだ。


「そうしたら大したハッピーエンドじゃないか」

人のいいケレブは笑顔でそう言った。が、言った後で疑問が沸いた。もしそうなら彼のこの金欠状態はなんなのだろう?それに二人は結婚もしていなさそうだ。


「それがなかなか……」

トマは微苦笑してそう言った。

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