第48話 異術士の誕生

「それから僕たちはロゴに向かいつつ色々と試したんです」

トマもニナを真似て川に手をかざすと何と掌から炎が巻き上がった。その炎で川魚が焼かれてとりあえずの腹ごなしになったが。


ニナも川だけではなくいろいろなところに向かって手をかざしたが、彼女は炎を出すことができなかった。代わりに彼女は突風を出す事ができた。


「つまり、僕は火と土の力を、ニナは水と風の力を得ていたんです」

それもすぐに判ったわけではない。トマが自分に土の力が宿ったのを理解したのは、ニナが低い段差を踏み外した時に咄嗟に手をかざした時だった。ニナは転ぶ事もなくふわりと宙に持ち上がり、トマは何となくニナをそのままお姫様だっこした。


「それはまあ、よかったね」

ケレブはやや苦笑ぎみにそう言った。


「それで今その彼女は?」

ケレブはニナの事を尋ねた。


「元気でやってますよ。なかなか会えないくらい……」

トマは少し口をへの字にしてそう答えた。


トマとニナはそれぞれ超常の力を得たが、お金もないし身の回りのものもない。食べ物はケレブ山にいるときは野兎や魚を採って何とかしのいだが、人間の世界で生きていくためにはお金が必要である。


そしてロゴに到着した二人はまず日銭を稼ぐために働こうとした。しかしいくら超常の力を持つとはいえニナは病み上がりだし一人にしておくのは危険だ。従って二人はいつも一緒に行動することにしたが、そうなるとなかなか難しいのだ。


工事現場に行ってもニナは雇ってくれないし、給仕の仕事にトマは必要ないしで、思うように仕事が取れない。辺境の集落とはいえ街中で野宿をするわけにもいかないので、夜は山に戻って野宿するような生活が続き、私達は一体なに?野生動物なの?とニナがキレだすまでそう時間はかからなかった。


「そんな時にたまたま冒険者の一団が現れて」

何でもとりあえず攻撃魔法の使い手を探しているらしい。当時のロゴにそんな人間はほとんどいなかったが、これ幸いとニナはトマを連れて応募したのだ。


──ちゃんと魔法が使えるのか?

その一団のリーダーがそう言うとトマが答えるよりニナが先に答えた。


──この人は炎と大地を操る大魔法使い、岩漿がんしょうの異術士よ!

世間に疎いニナにとっては大いに恰好つけたつもりだったが、当然その名乗りは一団に大爆笑された。しかしトマの力を見ると態度を改めて二人を雇ってくれたのだ。

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