第47話 助かったふたり

「それからどうしたんだね?」

ケレブはトマにそう訊いた。


「気が付いたら山麓の川の近くにいました」

トマは静かにそう言った。


「僕は気が付くととにかく川の水を飲みました」

そうして落ち着くとニナの姿を探した。


「その彼女は?」

ケレブは努めて冷静を装いそう訊いた。


「無事でした。すぐ近くで気を失っていました」

その言葉にケレブは静かにほっと溜息をついた。良かった。


「どうやって助かったんだと思う?」

ケレブの質問にトマはうーんと唸った。


「今考えてもよく判りません。地図をみてもかなり離れてたのに……」

それもまた精霊の加護なのかも知れない。理由は不明だが。


「いつからその力に気が付いた?」

ケレブはそう訊いた。


「最初にこの力を使ったのはニナでした」

ニナは気が付いた後もしばらく動けなかった。トマは川の水を掬ってニナに与えようとしたが旅装は全て失っていたので、とりあえず手で水を掬おうとしたのだが──


ニナが川のほうに手を伸ばすと川の水が持ち上がったのだ。トマは呆然とそれを見ていたが、意識が混濁していたニナは特に反応を示さず、そのまま手招きすると浮かんだ水がゆっくりニナのほうに近づいてきた。水の塊はニナの顔の近くで止まり、そこから細い水の束が出てニナの口へ入っていった。


──ぷっはあ生き返った!ってなにこれ?

久々に聞く元気なニナの声に、トマはようやく自分たちが助かった事を実感した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る