考古学者の取材

第46話 大消失の記憶

「あの時の光景は今でも忘れられません」

ケレブの質問に岩漿がんしょうの異術士──トマ・オジエはそう答えた。


「光の乱気流と言えばいいのかな、とても言葉では表現できないです」

トマは暗い目でそう言った。


それはトマの言葉より遥かに強烈な光景だった。ついに最後の祠──サラマンダーの祠が破壊され、それにより聖地ノレスを護っていた地脈が暴走したのである。


普通ならこんな事は起こらないのだが、聖地ノレスの地脈は他の地脈と交錯するという特殊な状態だったので、行き場を見失った地脈が他の地脈を求めて暴走したのだ。それにより言葉通り、いや言葉以上の天変地異が発生した。


大震災と噴火と暴風雨が発生し、空は暗い雲に覆われ、雨と雹と雪と雷がノレス全体を襲った。地震によりトマは2mも飛び上がり、着地ができずに転がった。必死にニナの手を握ろうとして顔を上げると恐ろしく赤い煙が舞い上がっていた。それはカレデ山の噴火だったのだが、その時のトマには赤い煙にしか見えなかった。


雨と雹と雪に打たれながら必死にニナの腕を取って身体を抱きしめる。二人の身体は雨と雹と雪に冷やされながら、同時に噴火の熱に晒され、さらに周囲には光の乱気流が舞うような、二人を襲うような、或いは二人を護るように漂っていた。


ニナ!ニナ!


トマはそれだけを叫んでいた気がする。そしてニナも必死に自分を呼んでいたような気がする。しかしその声は聞こえず、もはや目を開ける事もできなかった。


そうして二人の意識は途切れた。

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