第44話 避難民からの避難
アウザ少将はルードヴィヒ以下最高幹部四人を探そうとしなかったが、結果的にそれは適切な対応であった。士官会議の翌日未明にとてつもない
──この世の終わりだ
ノレスの人々は絶望に打ちひしがれた。ベリデオ帝国の侵略に続き、突然の天変地異は多くの人間の心に暗い影を落とした。動ける者はノレスを離れ、動けない者は終末の時を待つようにただ祈りを捧げた。
その避難民の中にトマはニナを伴って紛れ込んでいた。避難民の中には軍で見かけた顔もあったがお互いに無視した。休憩中に言葉を交わす場面もあったが、お互いに軍の事は言わなかった。何せ純然なる脱走である。何も言うべきではなかった。
サバイバル状態の場合、単独で行動するより、集団で行動するほうが個体の生存率を大幅に上げるというのは基本中の基本だが、それでもトマはある段階でこの集団から離れるつもりだった。理由はいくつかある。
まずこの集団は膨張すればするほど秩序が失われていったのが一番大きい。当初はお互いに助け合ったりしていたのだが、ある段階から窃盗や暴行が増えてきたのだ。そうなると
似たような理由で派閥化が激しくなった。突然不公平なルールを強制され、さらにそれらの各派閥は共通してベリデオ脱走兵への制裁へ向かったのだ。
──全ての元凶はベリデオだ
豊穣な土地で生まれ育ったノレスの人々は、だからこそこの人災と自然災害で心身ともに荒廃していたのである。トマは一見では軍人には見えないので制裁を回避できていたが、それとて何時まで躱せるかなど判らない。
「明日にはカレデ山麓の国境を超える。そうしたらここから逃げよう」
トマはニナと肩を寄せ合って小さな声でそう囁いた。
「…………」
ニナは黙ってトマの掌を強く握り返した。喋れなくなったわけではないが、大震災以降彼女は口数が少なくなり、また正体を隠すためにトマはニナに極力喋らないように言っていた。聖女であり美少女であるニナは二重の意味で正体を隠すべきだった。
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