第43話 軍団長の怒り

「幕僚長たちはまだ見つからんか?」

会議が始まるとアウザ少将は居並ぶ軍官僚たちにまずそう訊いた。


「依然、連絡が取れません」

参謀の一人がそう言うとアウザ少将は思い切り会議のテーブルを殴った。


「一体貴様ら何をやっているんだ!いや、何をしていたんだ!」

アウザ少将は居並ぶ軍官僚を見渡し睨みつけた。


「貴様らが精霊の加護とやらを探していた事は聞いている!言え!何をした!」

例え最高幹部の中で爪弾きされていようと、もう軍隊での出世を諦めて天下りをしようと考えていたとしても、本物の、生え抜きの軍司令官の迫力は凄まじかった。


「ボレス、貴様は例の調査隊に参加していたな?」

名指しされたボレス参謀は即時椅子から立ち上がり直立した。


「知っている限りの事を今この場で言え」

アウザ少将はボレス参謀に報告を命じた。その睨みは凄まじい。


「申し上げます!我が第一軍団十一歩兵聯隊は幕僚長指揮の下ホープ山に赴き、当地のノームの祠と呼ばれる遺跡を調査しました!調査は一日で終了し、帰投後に調査隊の解散命令が下った後、本官は編制班に復帰し以降は関与しておりません!」

ボレス参謀は正面を向いたまま大声でそう報告した。


「ノームの祠とは何だ?」

アウザ少将はそう訊いた。


「詳細は不明です!」

ボレス参謀がそう言うとアウザ少将は質問を変えた。


「貴様は以後関与していないと言ったな?」

その質問にボレス参謀ははい、と答えた。


「調査隊解散後に特務部隊という部隊の編成履歴があるがこれはなんだ?」

その質問にボレス参謀はふたたび詳細は不明です、と答えた。


「特務部隊の編成を言え」

アウザ少将はそう命じた。


「第一第二軍団の工兵聯隊を中心に四中隊で編成されております!」

その報告にアウザ少将の目は釣り上がった。が、激発はしなかった。


「中隊の総指揮官は?」

アウザ少将は粘り強くそう訊いた。


「ルードヴィヒ幕僚長です」

そこまで聞けば何が起きたかは予想はできる。しかしアウザ少将は質問を続けた。


「中隊はいつどこに向かった?」

6月22日0500編成後ホープ山へ行軍予定でした、とボレス参謀は答えた。


「判った」

アウザ少将はそう言ってとりあえず矛を収めた。


「各員に命ずる。駐屯地の機能回復を優先せよ。これはノレス全体も含む」

アウザ少将の命令に出席者は一斉にはっ!と答えた。これはつまりノレスの災害救助を最優先にせよ、という意味だ。


「幕僚長及び当該四中隊の探索は第三軍団で行う。以上、解散!」

そう言うと出席者は一斉に立ち上がり敬礼して会議室を退出した。それはつまり幕僚長たちを本気で探す気はないという意味なのだが、誰もそれに反論しなかった。

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