第42話 悲しい密談

「やつら、本当にやったんだろうね」

アイニは痛みに耐えながらそう言った。もちろんそれはノームの祠の破壊の事だ。


「まさかこんな事になるなんて……」

シルヴァは怒りよりも恐怖の面持ちでそう言った。


この場にいるのはホープ山調査隊に参加した四人だけである。トマは些か場違いな気もしていたが、当事者の一人として密談に参加していた。


そう、密談である。祠の事は聖殿の人間なら誰でも知っているが、それを爆破して地脈の光を浴びようなどという話はおいそれと話せるものではない。


「トマ、あんたに軍の偉い人への伝手なんかは、ないだろうねえ……」

アイニは苦々しく苦笑しながらそう言った。


「……僕はただの伍長なので……」

トマはそうとしか言えなかった。


「…………」

アイニはしばし目を閉じて何かを考えた。


「トマ」

目を閉じたままアイニはトマに声をかけた。


「三日のうちに状況が好転しなかったら、いや悪化したら」

アイニはそこで一旦言葉を切った。何かを言い淀んでいるようだ。


「……ニナを連れて南方へ避難しなさい」

アイニは躊躇いがちにそう言った。


「……そんな……」

それだけ言ってトマは絶句した。何と言っていいか判らない。


「南方のカレデ山を越えた先にはロゴという集落がある」

安全とは言い切れないが今はそこしか逃げる先がない、とアイニは言った。


「そんな、皆さんは……、それに軍だって何とかしてくれ……」

そこまで言ってトマは言葉を続けられなくなった。もちろんこの時アウザ少将が懸命に被災者救助を行っているのだが、聖所の人間はそれを知らない。それ以前にこの四人はそもそもアウザ少将という人物を知らない。この四人が知っているのはあの仲が悪くて横柄な軍最高幹部だけなのだ。救援など絶望的だと思っている。


「いいかいトマ、よくお聞き」

アイニは目を開き、トマの手を握って言葉を発した。


「ノレスの防災機構はあまり充実していない。何せ四大精霊の加護があったからね。でも私が心配しているのは救助が遅れる事じゃない。あんたの将軍さま方がこのまま他の祠も壊してしまう事だ。次にくるのは洪水か台風か、いずれにしてもこれ以上の災害が起こればノレスは終わりかも知れない。あんたにベリデオがやったことの責任を取れ、だなんて言わないよ。人間にはできる事とできない事があるからね。でもあんたニナが好きなんだろう?ならばせめてニナだけでも助けてやっておくれ」

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