第41話 ノレス大震災

数年に一度程度の頻度だがベリデオ帝国には地震という災害がある。それは火山列島に住む人間からすると地震とも呼べない程度のものらしいが、それでもベリデオの人間にとっては大パニックになるほどの自然災害である。なにせ地面が揺れるのだ。


しかしそれでもトマは21年の人生の中で何度かそれを経験した事があるが、聖地ノレスの人々にとっては生まれて始めての経験である。しかもこれはトマも初めて経験する程の大地震だった。パニックになるのも当然である。


後に知った事だが、この時ノレスの防災機構は完全に機能不全に陥っていた。泣き叫ぶ元気がある者はまだましなほうで、大多数のノレス人は恐怖に震えるばかりで、二次災害の予防や避難もできない状態だった。


この状況に対応したのは皮肉な事にベリデオ帝国の駐屯部隊だった。第三軍団司令官アウザ少将が陣頭指揮を執って被災者の救助と支援を行った。しかしそれでもノレス全体への救助までには手が回らなかった。トマを含む聖殿の被災者は、自ら仮設小屋を設置して何とか生存活動を維持できるように懸命に努力した。


「死者が出なかったのは本当に幸運だったわ」

アイニはそう言ったが彼女自身は足を折っていた。


「シルヴァ、あんたが皆をまとめなさい」

脂汗を流し、痛みに耐えながら、アイニはシルヴァにそう言った。


「……はい……」

シルヴァは気丈な叔母の指示に恭しく従った。二人はニナの事には言及しなかった。


「…………」

ニナはなかなか恐慌から立ち直る事ができなかった。一応は当初のパニック状態からは脱却したが、それでもトマの近くから離れられない。


軍人としてはひ弱なトマだが、それでも一応現役軍人であり数少ない男手でもある。トマは救助にも瓦礫撤去にも仮設小屋設置にも肉体労働には何でも参加した。しかしその全ての場面にニナは一緒についてきた。ニナはトマの姿が見えていれば一応は冷静に振る舞う事ができたが、それでも口数はめっきり少なくなった。


ニナが恐慌状態から回復しきれなかったのは単に大地震の恐怖だけではなく、以後も断続的に大小の地震が頻発したからである。それはニナだけではなく、トマも含めて皆恐慌に襲われた。気丈なアイニすらも揺れが起こると歯を食いしばり、取り乱さないように必死に耐えるのに精一杯だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る