第40話 震えるふたり
聖殿は、いやノレスは大混乱に陥っていた。トマがようやく顔を上げると、聖殿の社のところどころが崩壊していて、そこら中から悲鳴や泣き声が聞こえた。周囲を見渡すと、聖殿だけではなくノレス全体が同様の状態だった。
「…………ニナ、大丈夫?」
思わずトマはニナを呼び捨てにしたがそんな事を気にしてる場合じゃない。
「……………」
ニナはまだ震えていた。震える手でトマの軍服の上腕部を握りしめてそれを離そうとしない。顔は真っ青で、瞳孔は瞳いっぱい開いている。
ふいにトマの右目がかすんだ。右手でぬぐうと手に血がついていた。トマは全く痛みを感じていなかったが頭に怪我を負ったらしい。
「血」
ニナはかろうじてそう言い、トマの胸に身体を預けた。一応それは抱擁だったのだが、ニナの両手はトマの軍服を握りしめて離れなかったので、身体だけトマの身体に飛び込むような形になったのだ。
「…………ニナ」
トマはそう言ってニナを抱きしめた。その時に初めてトマ自身の腕も震えている事が判った。トマは震えた腕で震えるニナを抱きしめ、そのまましばらく動けなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます