第40話 震えるふたり

聖殿は、いやノレスは大混乱に陥っていた。トマがようやく顔を上げると、聖殿の社のところどころが崩壊していて、そこら中から悲鳴や泣き声が聞こえた。周囲を見渡すと、聖殿だけではなくノレス全体が同様の状態だった。


「…………ニナ、大丈夫?」

思わずトマはニナを呼び捨てにしたがそんな事を気にしてる場合じゃない。


「……………」

ニナはまだ震えていた。震える手でトマの軍服の上腕部を握りしめてそれを離そうとしない。顔は真っ青で、瞳孔は瞳いっぱい開いている。


ふいにトマの右目がかすんだ。右手でぬぐうと手に血がついていた。トマは全く痛みを感じていなかったが頭に怪我を負ったらしい。


「血」

ニナはかろうじてそう言い、トマの胸に身体を預けた。一応それは抱擁だったのだが、ニナの両手はトマの軍服を握りしめて離れなかったので、身体だけトマの身体に飛び込むような形になったのだ。


「…………ニナ」

トマはそう言ってニナを抱きしめた。その時に初めてトマ自身の腕も震えている事が判った。トマは震えた腕で震えるニナを抱きしめ、そのまましばらく動けなかった。

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