第38話 非日常に戻る

調査隊はノレスに戻って解散した。上層部のほうはいろいろやっているようだが、少なくともトマの任務は元通りになった。つまりニナへの聴取である。


「今さら何か聴くことあるの?」

ニナは少し不機嫌そうにそう言った。


「従前の任務に復帰せよって命令だからね」

トマも微妙な顔でそう答えた。


実は二人とも照れ隠しである。二人とも内心ではもうこれで会えなくなるかも?と密かに心配していた。だが戻って夜が明ければ、まるで何事もなかったかのように聴取だか雑談だかよく判らない謎のゆるい時間が戻ってきていた。


「おたくの上の人は本当に祠を破壊するのかな」

ニナはトマに質問するような、独り言のような、微妙な感じで言葉を発した。


「どうなんだろうねえ」

トマも曖昧な回答である。これは実は当然である。なにせ最高幹部四人の意思疎通ができていないのだ。決まってないものの予測などしようがない。


「精霊の加護ねえ……」

トマは呆然とそう言葉を発した。


「すごくありがたいけど僕にはちょっと高尚すぎるかなあ」

トマは思っていた事を素直に言った。


「そう?」

ニナは話の先を促した。


「ニナさんみたいな人ならいいんだろうけどさ」

トマはちょっと自分を卑下して言葉を続けた。


「僕はもっと財宝とかそういうものかと思ってた」

トマは正直に言った。まさか大地の恵みそのものが加護だなんて。


「私みたいってなによ」

ニナはちょっと口を尖らせて反論した。


「大体にして一緒じゃんそれ」

ニナにとっては当然の事を言った。


「一緒?」

トマはニナが言った事を訊き返した。


「財宝だって大地の恵みだって豊かになるのには変わらないじゃん」

ニナの言った事はすとんとトマの胃の腑に落ちた。が、やはり少し驚いた。


「そういわれればそうだけど……やっぱりさすが聖女だよね」

言ってる事はその通りだがやはり視点が広いというか大きいというか。


「なによそれ」

ニナはまた口を少し尖らせた。


「聖女なんてロクなもんじゃないよ。ただの偶像アイドルと一緒」

ニナは聖女のあり方に不満があるようだった。


「信者を客、祝詞を歌、聖衣を舞台衣装に見立てれば偶像そのものだよ」

ニナは少し水を飲んで一拍間をおいた。


「そんで遊びに行くんでも毎回変装してさ。唯一違うのが何だかわかる?」

ニナはトマにそう謎をかけた。


「……なんだろう?」

トマは芸能にはあまり興味がないので判らない。


「ギャラがないんだよギャラが!ノーマネーなんだよこっちは!」

トマは思わず吹き出した。

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