第36話 聖女の啖呵

「ひとつ質問がある」

ボウ中将はアイニに問いかけた。


「先程、あの光を浴びればいいと言ったな?」

ボウ中将の言葉に周囲の人間もアイニの言葉を思い出した。


「それはどういう意味だ?光が地脈の発露の結果なら関係ないのでは?」

その言葉にアイニは少し失笑した。


「どうやって地脈を見つけるおつもり?」

アイニの言葉にボウ中将は無言になった。


「まさかずっとダウジングでもなさいますか?」

アイニの皮肉には誰も反論できなかった。


「あの光は地脈の具現です。あれを浴びれば地脈を認識できるようになります」

アイニは表情を改めて火口の光を見つめながらそう言った。


「ただし」

アイニは言葉を続ける。


「先程見た通り、ひとつの地脈は他三箇所からの地脈に守られており、そして地脈の羅針盤たる祠を破壊しようとすれば、それも結果として同様の目に遭います」

そこまで言うとアイニは火口の光のほうを指さした。


「あれが見えますか?」

アイニが指さした先の光の塊の中に、ごく僅かな影が見えた。


「あれは?」

それを視認したルードヴィヒがアイニにそう問いかけた。


「あれは正しい手順を踏まずに光を浴びようとした者だそうです」

そう言われて周囲の人間は目を凝らしたが、距離が遠く光の塊の中にあるのでやはり良くは判らない。しかし言われてみれば人間の上半身の一部のようにも見えた。


「これが私たちの知る全てです。何やら私が代表してしまいましたが、こんな事でしたら聖所に居る人間なら誰でも知っていました。何故ならば祝詞がまさにこの事の説明ですからね。さてベリデオの皆様に伺いましょう。あなた方は先の降伏勧告で我が国の主権を侵さないという条件に合意なされました。従ってあなた方はこの地をこれ以上侵略する事はできない筈です。その約束を破って我が国を接収しますか?しかしもしそうなされても、あなた方が望んだ財宝などはありませんよ。如何しますか?」


アイニの静かな啖呵にベリデオの面々はただ絶句するだけだった。

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