第26話 調査隊参加命令

「トマ伍長、ホープ山調査隊に参加せよ」

デルカ班長は辞令を読み上げて正式にトマにそう命じた。


「はっ!」

トマも敬礼して命令を受託する。そして奇妙な間があって、


「……自分はなにをすれば?」

軍人としてはこんな事を聞くべきではないのだが命令が曖昧すぎた。誰々の指揮下に入れとか、何々をしろというのではなく、ただ参加しろと言われても。


「さあ?雑用じゃない?」

デルカ班長も投げやりにそう言った。元々通信術士としての班長であった彼女もまたこの侵略戦争の事はよく判っておらず、動員された事にも不満を持っている。彼女はトマと違って研究院から招聘された人間なのでトマより軍人らしくない。


「まあニナ・コイヴさんも行くっていうからそのついででしょ」

デルカ班長はさり気なくトマに情報をもたらした。


「ああ、そうなんですね」

トマは素っ気なくそう答えたが、内心は密かに嬉しかったし、実はそれもデルカ班長にバレバレである。トマはまだニナを好きとまでは行ってないが、占領地の中で一番仲良くしているかわいい異性となれば意識しないわけがない。


「では失礼します!」

トマはやや元気よくそう言って敬礼し、足取り軽く退出していった。


「……まあ、実らない恋だとは思うけどね……」

トマが退出した後にデルカ班長はそう独りごちた。軍人と異国の聖女、それも侵略側と被侵略側。舞台演劇オペラでもあるまいに実るわけのない恋だが、まあ青春というものは苦いほうがより成長するってもんよ。ガンバレ若者。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る