第23話 ノームの祠

「ホープ山の大掘削?」

アイニは帝国軍からの意外な質問を訊き返した。


「何かご存知ですか?」

聴取していた魔導兵がその反応に食いついた。


「あれは掘削ではありませんよ。ただの工事」

アイニはあっさりとそう答えた。


「工事、とおっしゃいますと?」

魔導兵は話の詳細を訊いた。


「あそこにはノームの祠と呼ばれる聖所があるのでそれを修復したのです」

アイニは呆れたようにそう言った。もちろんそれは聖女として知識の一端に関わるものではあるが、ベリデオ帝国が求めるようなものは何もない。


「ノームの祠とは?」

魔導兵は粘り強く話を訊いてきた。


「大地の精霊ノームを祀った祠です」

アイニは別に何もありませんよ、と言いかけて止めた。あそこに何かあると思うのなら好きに掘削なり祠荒らしなりすればいいのだ。何なら祠を壊して見ればいい。


「詳しい場所をご存知ですか?」

魔導兵は目に力を込めてそう訊いてきた。


「私は行った事はありませんが賢所かしこどころに昔の地図があるはずです」

嘘である。アイニはノームの祠だけではなく他三箇所の祠にも行った事がある。しかしそれは公的なものではなく、男運が悪かった彼女の個人的な祈祷としてだが。


嘘をついたのは、帝国に協力したくなかったのと、あんな遠くに行くのが面倒だったのと、彼女が訪れた事があるのを知られるのが些かバツが悪かったからだ。


その後もいくつか質問があったが、今日の聴取は僅か20分で終わり、担当した魔導兵は慌ただしく退去した。アイニは早く終わって助かった、と思っただけであった。

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