第22話 帝国軍の実態

ブルーノ・ボウ中将はベリデオ帝国の征西軍第二軍団長であり、この聖地ノレス侵攻作戦の最高幹部の一人である。しかし彼は本来参謀本部の人間であり、軍団指揮官ではない。彼が渇望していた参謀総長の座は皇子ロタールの椅子となった。


そのため横滑りではないが、彼はこの遠征軍──征西軍の第二軍団長となり、実質は皇子ロタールの代わりに作戦立案と管理をしていた。ボウ中将は自分の立場に納得していなかったが、自分もまたアウザ少将の立場を奪った事には一切頓着しなかった。


征西軍司令部の構成は歪であった。まず最高指揮官が幕僚長にして皇帝の長男であるルードヴィヒ、その下に皇帝の次男のロタール参謀総長が来る形になっているが、説明するまでもなくこの長男と次男は対立関係にある。


兄弟の下には三人の軍団長がいるが、第一軍団長ヴィンチ中将はルードヴィヒ派閥、第二軍団長ボウ中将はロタール派閥となっており、しかもヴィンチ中将もボウ中将も元々実戦指揮官ではない。


第三軍団長のアウザ少将が最高幹部中唯一の実戦指揮官であるが、彼は両皇子どちらの派閥でもなく、さらにカール三世の支持者という訳でもない。


そのため聖地ノレス侵攻は第三軍団長アウザ少将の手腕に頼り切りだった。そしてそれが無事に終わると、アウザ少将は蚊帳の外となり、他の四人がこの侵攻作戦の本来の目的を巡って対立しているのである。


ちなみにルードヴィヒ皇子とヴィンチ中将、ロタール皇子とボウ中将はそれぞれ派閥の主従関係に当たるが、だからと言って彼らが親密かはまた別の話である。


例えば前述の通り、ボウ中将はロタール皇子に参謀総長の座を奪われたので、感情的にはあまりロタール皇子に好意的ではない。しかし大人しく従ってロタールが皇太子にでもなれば、自分に参謀総長の座が降ってくるという程度の打算はある。


またヴィンチ中将とボウ中将も元々参謀総長を巡ってのライバル関係であり、つまりこの四人は四つ巴の敵対関係が、それぞれの都合でペアを組んでいるだけ、とも言えるのである。


これを知っている軍団の中級幹部たちは当然あまりやる気がなく、かと言って派閥抗争に巻き込まれるのもイヤなので、遠巻きに、非難されない程度に、占領地政策を進めつつ、しかし抜ける手は思いっきり抜いて日々をやり過ごしているのであった。

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