聖地ノレス駐屯記

第17話 聴取という名の雑談

トマはニナの専任になったわけではないが、ニナの聴取をする事が多くなった。理由のひとつはニナより元聖女たちのほうが古い文献に詳しく、相対的に一番若いニナへの聴取の価値が下がったからである。


「だったらもう軟禁もやめて欲しいんだけど」

ニナはトマにそう言った。もちろん本気ではなく愚痴である。


「今は外に行っても何もできないよ。戒厳令みたいになってるし」

トマもニナに対して少し気安く話すようになった。


「誰かさんたちが侵略してきたおかげでね」

ニナは嫌味たっぷりにトマにそう言った。それは本音ではあるが、トマに対してある程度は心を開いているという証でもある。他のベリデオ軍人にはとても言えない。


「僕だって別に……」

侵略戦争に参加なんかしたくなかった、と言いかけて流石に口をつぐんだ。


「それよりここは精霊伝承ばっかりだね」

トマは話題を聴取に近い内容に転じた。多分この聖女さんは本当に丸暗記した内容以上の事は何も知らなさそうだが、こちらはこちらで仕事である。雑談も構わないのだが、雑談ばかりで聴取を怠ったら後で怒られるのだ。


「そりゃまあそういう名目の土地だからね」

まるで聖地という言葉を売出し文句キャッチコピーのように言った。


「でも聖女がそういう力だかを受け継いでるわけではない」

もう何度もやり取りした事なのでトマも今さら質問でもなくそう言った。


「だから聖女の格好して祝詞とか上げるのがウチの家業なの。それだけ」

もはや家業とまで言い切るニナであった。


「あー乗馬したい!デアウィンド元気かなあ!」

ニナは愛馬の名前を口に出した。愛馬と言ってもニナの持ち馬ではないが。


「……トマはここで何してるの?」

ふいにニナはトマにそう問いかけた。トマは一瞬ニナの質問の意味を考えた。話の流れ的に、ニナはトマが非番の時に何をしているのか?と聞いたのだろう。


「……そういえば何もしてないなあ」

トマは正直にそう言った。昔は撞球ビリヤードやキャンプなどとそれなりにいろいろと遊んでいたが、入営以降は休日は寝るだけになった気がする。


「うわあ寂しい青春」

運動不足でフラストレーションが溜まっているニナは嫌味たっぷりにそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る