第15話 聖女の嘆き

「ええ!?軟禁!?」

ニナはその言葉に大仰に驚いた。


「叔母様、そしたら私はどうなるのです?」

ニナはアイニにそう訊いた。もちろんニナが心配しているのは聖女としての責任ではなく、お忍びでの遊びに出かけることが制限される可能性だった。


「外出ができなくなるだけで変わらないでしょ」

アイニは事もなげにそう言った。


「ひどい!契約違反だ!」

ニナはアイニに詰め寄った。が、


「契約なんて誰もしてないでしょうが」

あんたがお忍びで遊びに行くのだって、まあ若いししょうがないなってお目溢ししてただけで、本当はダメに決まってる。とアイニは言った。


「嘘だ!叔母さんうそつきだ!」

ニナは抗弁した。これは実はニナのほうが正しい、というより現実に沿った言い分である。もし本当に聖女が決まりきった生活をしているだけなら男性との出会いなどある筈がなく、従って結婚退位という奥の手が封印されてしまうからだ。


もちろんアイニもシルヴァもこのお忍びを駆使してめでたく結婚相手を探し当てたわけだが、ニナの場合はそれとやや違っていた。


「あんたは本当に遊んでるだけでしょうが」

アイニは呆れたようにそう言った。


「そんなことないです!」

ニナは抗弁した。乗馬だって籠球バスケットボールだって食べ歩きだってウィンドウショッピングだって立派に女子力を向上させるものだし、殿方との出会いを前提にしたものだ、とニナは思っている。現時点で出会いがないのはあくまでたまたまであり、いつかそのうち素敵な男性が現れると信じて疑っていなかった。


「……まあ、決まったことだから」

アイニは呆れてそう会話を終えた。アイニもシルヴァもお忍びで外出はしたが、それは公的な社交界に出かけて本気で結婚相手を探すためだった。ニナのように呑気な気構えで好きに遊んでいたわけではないのだ。


「元々美人だとああいうところがズレてるよね」

アイニと共に退出したシルヴァは半ば心配、半ば呆れでそう言った。


「美人聖女とか言われてるし、そのうちなんとかなるでしょ」

アイニもシルヴァも呑気な現役聖女より、夫や子供の方が大事なのであった。

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