第13話 幸福な降伏

約十日間の攻撃によりノレスは降伏した。続く十日で降伏文書の取り交わし準備が進められ、ノレスの指導者ウァレンティヌス法王は自ら調印式に訪れてサインした。これほど早く降伏に及んだのには理由がある。


「我々の主権を脅かさない……?」

ベリデオ帝国の使者が示した条件にウァレンティヌス法王は困惑した。


「左様、猊下の権限も人民の安寧も従前と変わらぬ事を約束致します」

使者がそう宣うと謁見の間にざわめきが巻き起こった。当然である。ではベリデオ帝国は一体なんのために我が聖地を突如攻撃したのか?


「我が陛下の思し召しはこの地の調査とその協力のみです」

使者は恭しくそう述べた。


「…………」

ウァレンティヌス法王は少し考える時間が欲しいと使者に言い、使者はその場で三日間の猶予を約束して退出した。さて大急ぎでの会議である。


「どだな事だ?小麦でも欲すいのがあいづらは?」

法王はとても美しいノレス語で臣下たちに問うた。


「判らね。地下資源でもたねでるのだべが探しているのか?」

枢機卿も麗しいノレス語で疑問を呈した。


「今の皇帝は国でもすこだまかなり不人気らすい」

外交僧も流麗な発音で情報をもたらした。


んだずにゃー?そうなのか?

法皇は新たな情報に驚きつつそう返した。


その後も美しいノレス語での会議は続いたが、結局主権を侵さず人民の安寧も変わらず、ただこの地の調査とその協力だけ、という条件が効いた。もし土地の接収という話なら違っていただろうが、まさか土だけ持っていく筈もなく、農作物が豊かなノレスにとっては有限の地下資源などさほどの魅力でもなかったからである。

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