第12話 農園への侵略

ノレスへの攻撃は一方的なものだった。それもそのはず、ノレスの実態は広大な農業国家であり、侵攻しようと考える者など誰も居ないからだ。農作物が豊かなら充分侵略対象にもなり得るのだが、ノレスのそれは余りにも図抜けていた。


なにせノレスには種子の投げ捨て禁止という法律がある。何故ならば種をそこら辺に投げ捨てると、一年もしないうちにそこから作物が取れるので迷惑になるという理由からだ。それくらいノレスは農作物の育成に恵まれた土地なのである。


それ程の豊かさがあると、周囲の国々は逆にノレスを保護しようとした。何せほっといても毎年豊作なので取引価格が非常に安定しているからだ。


そして聖地だからという訳でもないだろうが、ノレスの人々は強欲ではなかった。毎年ほぼ決まった価格で農作物を流通させ、それによる収益で国を安定運営する。その時が止まったような国家運営は周囲の国々からも大いに信頼されていたのである。


そんなのどかな国家に、何をとち狂ったのかベリデオ帝国カール三世は突然侵略戦争を仕掛けたのである。しかも宣戦布告もなしにだ。


──陛下はいったい何を考えているのか


ほとんどの平民だけではなく、重臣も役人も軍人も僧侶も、諸侯も王族の大半もそう思っている。しかしカール三世は側近と共に国家の枢軸機能を押さえており、その暴挙に反対できる者はいなかった。

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