魔導兵の慄き

第11話 みんな真っ青

「集合!」

聖地ノレスまであと20kmという地点で行軍は停止し、トマたち魔導兵は一旦馬車から降ろされて部隊指揮官の前に集合した。


「翌朝0400、アウザ軍団が攻撃を開始する」

それを聞いた50人の魔導兵はみな無言だったし無表情だった。だが夕刻を過ぎた時間でも全員真っ青になってるのは判った。トマも自分の顔から血の気が引く音が聞こえた気がする。


「魔導兵は各班長からの別命あるまで待機!」

そう言うと部隊指揮官は解散を号令した。ちなみにこの「部隊指揮官」という人物がどこの誰だかは知らない。普段の上官は情報将校の少佐だが、その少佐は従軍しておらず、代わりにこの少佐階級章をつけた人物が部隊指揮官となったのだ。


「…………」

魔導兵たちは無言で解散した。彼らは一応職業軍人ではあるが、本質的にただの通信術士であり、その精神面メンタリティは軍人より民間人に近い。友人や家族の前では軍人ぶることは多いが、それは逆に本物の軍人としての気構えがないという傍証でもある。


もちろんトマも同じだった。後方待機はまだ助かったと思うが、戦争、それも侵略戦争の攻め手側に自分が居るという事実が恐ろしかった。


──脱走しようかな


トマはまたそんな事を考えた。従軍命令からこの行軍中までに三百回は考えた妄想である。もちろんそんな事ができるわけがないとは判り切っている。司令部に居る時にすらできなかったのに、こんな荒野の果てで脱走などできるわけがない。


そしてもちろん、トマ以外の49人の魔導兵たちも皆似たような事を考えており、それはしっかり軍司令部にも伝わってもいた。なので彼らは当初から戦力に数えられておらず、しかし代わりにもっと重要な役割を担うために従軍させられているのだ。

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