第10話 驚きと呆れ
「…………」
ケレブは我が目を疑った。
「……すご……」
助手のラザーはそれだけ言って絶句した。
「どうですか!?お役に立てますよね!?」
青年は笑顔で元気よくそう聞いてきた。
ケレブには魔法の才能はない。しかし彼は調査のために多くの魔法使いを雇ってきている。そのため彼ら魔法使いが決して全能の存在ではなく、それどころか多くの制限の中で初めてその奇跡の力を実行できるという事を知っていた。
しかし青年──
まず魔法使いたちなら絶対に必要な触媒も詠唱もなく、ほとんどの場合で必要な印も結ばず、岩に向かって手をかざすと、唐突にそれが持ち上がり、5mも持ち上がったところで炎に包まれたのだ。青年はこのまま焼き続ける事もできるが危ないし止めておきますか?と訊いてきた。ケレブは絶句したまま何度も頷いた。
「……いや、すごいな……」
ケレブは素直に青年を称賛した。そして疑問も呈した。
「これだけの力があるなら何でもできそうだが……?」
青年は術を使った直後だが精神的にも肉体的にも全く疲労はなさそうに見えた。
魔法使いの最大の問題はこの術を使った直後である。どれほどの手練れでも術行使直後は思考力も体力も低下している。故に魔法使いたちは単身で冒険などはしない。術行使後に自分を守る信頼できる護衛が必須だからだ。
しかし青年──岩漿の異術士にはそういう疲労は見えない。ということは理屈はともかく理論上はその術を連続行使できる筈で、それは正に無敵の力と言ってもいい。しかし青年ははにかむように、恥ずかしそうに笑うとケレブの質問を否定した。
「いやあ僕はこの力を具体的にどうするかというのがなくて……」
ケレブは絶句した。いや呆れ返ったのかも知れない。自分でも判らない。良かれ悪しかれ想像力が全くない青年であるらしい。
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