聖女の生活

第6話 象徴の不遇

ニナ・コイヴの朝は単調で面倒くさい。朝は毎日五時起きで黙禱と入浴を済ませ、朝食は完全菜食主義ビーガンだって三日で飽きそうな味気のない野菜、いや野草料理だ。これは本当に毎日同じもので、味付けすら変わらない。いやそもそも味なんてない。


それが終わると朝の祈祷である。これは彼女だけのものではなく、彼女を首座に据えた聖殿全体の朝の行事である。ここで彼女は祝詞を上げさえすれば後は座っていればいい。御神体に向いているので、正直動きさえしなければ寝ててもいい。


それが終わると賢所かしこどころでお勉強である。何百年前の何様がああ言われたこうなされた、それにより斯様かような奇跡が顕現したとか、本来ニナには全く興味のない事を、しかしニナは愚痴も言わず懸命にそれを学び覚えた。


お勉強が終わると昼食である。ここからがやっと私的時間プライベートに近い行動を取れる。朝の粗食を取り戻すかのように厚切りのハムやベーコンを挟んだサンドウィッチ、オムレット、スコーンに紅茶、食後のデザートまで細かく注文を付ける。


午後になっても大体は何か公務があるが、それでも週に2回は自由時間なのでお忍びで遊びに行く。彼女の隠密行動は徹底している。まず聖殿を出る時は侍女に扮し、その恰好で聖殿近くの役所に入ってそこでさらに私服に着替え、さらにそこから本当の私服やウィッグをもたせた侍女と待ち合わせをして、適当な公衆トイレ等に入ってお目当ての恰好に着替えるのだ。これだけで1時間はかかる。


「うおおおお生き返った!」

毎度の事ながらニナは小さくそう雄叫びを上げた。

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