魔導兵の憂鬱

第3話 ひ弱な下士官

うぇっぷ


ベリデオ帝国陸軍伍長トマ・オジエは吐気に耐えながら輸送用馬車に揺られていた。理由はふたつある。ひとつは単純に乗り心地が最悪であること、もうひとつはこの作戦目的である。


この大陸に住む者にとって聖地ノレスは、信仰対象とまでは行かないが、充分に聖所である。今回の作戦はその聖地ノレスへの侵攻であり制圧であるという。ノレス制圧など想定外だったし、それ以前に自分が前線に赴くなど考えてもいなかった。


トマには政治は判らないし、軍人として政治に口を出すべきではないとも教えられていたが、それでも今上皇帝カール三世がかなりヤバイ人である事は知っている。噂では皇帝だった兄を謀殺して帝位を得たとも言われている。


「全体!止まれ!」


どこからか号令が聞こえた。それを聞いたトマ及びこの輸送用馬車に乗せられていた魔導兵たちは一拍間を置き、なにか追加号令がないかを確かめると、一斉に幌車から降り、我慢して抑え込んでいた吐瀉物を吐き散らかした。


「まったく、いいご身分だぜ」


近くから歩兵の嫌味が聞こえる。が、反論なんてとてもできない。階級的にトマは下士官なので彼らの上位者だが、軍隊というのは階級よりメンコの数である。情報下士官として就職したつもりのトマや彼の同期たちにとって、「本物の兵隊さん」など怖くてとても文句などつけられないのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る