第4話 怖いのに嬉しい
とりあえず謝ったところで、改めてだ。
「では改めてあい、なんの用だ?」
「あっ……」
今度こそ会話を続ける。そのつもりだったのだが……
またも、あいは顔を赤くする。しかし、それは先ほどの、怒りに似たようなものとは違うように見えた。
怒り……そうかさっきのは怒っていたのか。
それを、自分の中で昇華した。ふむ、度胸だけでなく感情の扱いも素晴らしいものを持っているな。
「な、な、なんでいきなり名前!?」
「……なんで、とは……?」
「し、初対面の男の子からいきなり名前呼びなんて、お年頃の女の子にはきついんだよぉ!」
「まずかったのか」
「気まずいの!」
ふむ……そうか……初対面から名前呼びは気まずいか。
しかし、以前はそんなことはなかったように思うが。
「小中学生だと、受け入れられていた記憶だが」
「それを気にする年頃なのが高校生なの!」
「そうなのか」
「そうなの!」
やれやれ、難しいものだな、人間というのは。
とはいえ、ここにきて呼び方を変える、というのも、面倒なのでやらないが。
まだ話して数分と経っていないのに、すでに息を切らしているあいを見つめる。
「で、三度目だ。なんの用だあい」
「もうそのまま続けるんだ……まあいいや」
なにか、諦めにも近い表情を浮かべている。
なにをそんなに、疲れているんだかな。
「そう、そもそもボクがキミに声をかけた理由! さなちゃんが、困ってるでしょ!?」
ビシッ、と俺に指を突きつけ、あいは言う。
ふむ、困ってる……か。
「本人は、そうは言っていないが?」
「初対面且つ入学式初日から公開告白キメてくる相手に、正直に言い返せるわけないでしょうが!」
「……そういうものか?」
「怖いんだよまず!」
……ふむ、怖い、のか……俺は。魔王として君臨していた頃は、むしろ恐怖の象徴として君臨していたものだが。
この世界では、それはうまくは事を進めてくれないらしい。
もちろん、意識的に怖くしていたわけでは、ないのだが。
ちょっと反省。
「それはすまなかった……怖い思いをさせているとは、思わなかったんだ」
「い、いえ……こ、告白してくれた、のはその……いやでは、ありません、でしたから」
おぉ、さなに話しかけて数分。ようやく、会話が成立した!
俺は今……感動、しているのか?
それに今、嫌ではないと言ったな。
「嫌ではない。それはつまり、さなも俺のことが……」
「極端なんだよ! 怖いけど告白自体は嬉しかったってだけだから!」
「……怖いのに嬉しいのか?」
「いろいろ複雑なんだよぉ!」
……複雑なのか。
それにしても、この二人……ただ仲が良いだけでは、ないようだ。
先ほどから名前で呼び合っている以上に、気安い関係。
あいが介入してきたのも、己の正義感の問題だけではないのだろう。
ざっと分析するに……消極的なさなと、積極的なあいか。
互いに持たないものを持ち、時に補う関係、か。
「ふ」
「なんで度々急に笑うの。気持ち悪いよ」
「あ、あいちゃんっ」
「ははは、素直な奴だな。構うことはない、俺はお前が気に入った」
「気持ち悪いで喜ぶとか、エムの人?」
俺はさなのことを気に入った。そして、その友人であるあいのこともまた、好印象を抱いている。
良き人間関係を築いているようで、なによりだ。
とはいえ……先ほどのさなの反応が、俺への恐怖だとしたら。
少し行動には、気をつけたほうが、いいのかもしれないな。
ひとまず、今はさなと言葉を交わせただけでも、充分とするか……
「まーお!」
「……」
その時だ……突然、第三者から、なれなれし気に話しかけられ、さらには肩に手を回される。
この声……このなれなれしい態度……
あいつか。
「よーよー、なに盛り上がってんのさ。俺も混ぜべぶら!」
「……はぁ」
耳元でうっとうしくそいつを黙らせるため、俺はそいつの顔面に裏拳を叩き込み、強制的に黙らせる。
幸運なことに、そいつは後ろに倒れ、肩に回された手からも解放される。
「んがっ」
さらにそいつの頭は、机の角にぶつかった。
……痛そうだな。
頭を押さえるそいつを見下ろし……ようやく事態に頭が追い付いたのか、さなが慌てた声を上げる。
「こ、光矢くん!? いったいなにを……」
「あぁ、俺のことは真尾と、そう呼ぶといい」
「いやそれは恥ずかし……じゃなくて、いったいなにをして……だ、大丈夫?」
名前呼びはまだ早いか……そうかそうか。
心優しいさなは、床で打ち悶えるそいつを心配している。
……これは俺のせいだろうか。
「気にするなさな、そいつはその程度じゃ死なん」
「いや、そりゃ死にはしないだろうけど……でもさなちゃん、そいつ頑丈なのだけが取り柄だから。さなちゃんが心配することは、ないよ」
「うむ。……ん?」
あいも、俺にどう意見らしいな。
だが……その口ぶりに、引っかかりを覚えた。
「あい、こいつを知ってるような口ぶりだな」
「あぁ……あれ、腐れ縁みたいなものよ。光矢クンこそ、このバカ知ってるの?」
「あー……中学の時に、いろいろ絡んできてな、これが」
「てかお前ら、人のことぞんざいにしすぎだろ! あとあれとかこれとか、失礼だろ!」
痛みに悶え転がっていたこいつは、ようやく動きを止めた。
やっぱり、頑丈だなこいつ。
派手な金髪の男は、涙目で俺たちを見上げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます