第4話 あなたを助けたい

「こっちだよ、マリア」

彼女に手招きすると音をたてないように私の側に駆け寄ってきた。

ジラソルを越えれば彼女にとっての安全地帯はいくらでもある。

だが、そのためにはたった今交戦中の兵士達の間を通っていく必要があった。

もう上官からの命令など忘れ、彼女を助けることだけを考えていた。

……私はいずれ死ぬ。

敵に討たれて死ぬかもしれないし、味方に裏切られて死ぬかもしれない。マリアを送り届けた先で殺されるかもしれない。

それでもよかった。

彼女を助けられるならそれでよかった。

「マリア、ここを抜ければきっと味方が君を助けてくれる。だから……ここをつっきるよ」

目の前にはH421、そして戦う味方の姿があった。

冷静に考えれば鼻で笑ってしまうくらいおかしなことをしているけれど何かに取り憑かれてるんじゃないかってくらい、私は正気じゃなかったと思う。

「行くよ」

バッと駆け出す。マリアの手を握り、走る。

私に気づいた敵の兵士が次々に弾を撃ってくる。私はマリアを守りながら敵に向けて拳銃を向け、撃つ。

もちろん走りながら照準なんて合わせられるわけもなく、見当違いの方向に弾は飛んでいく。マリアは悲鳴を上げながらも私の側を走り続けた。

「あっ……!」

敵の撃った弾が私の腕をかする。血がにじんでいく軍服。ヒリヒリと痛む腕。

それでも私は走り続けた。

行け、マリアを救え……。

マリアを__



「パルさん、パルさん!」

彼女は呼びかけに答えなかった。

彼女の体からは血があふれ出し、止まることはなかった。


自分の身を犠牲にして彼女は私を守ってくれた。

どうして私を守ってくれたのかは分からない。


それでも一つ分かることは私は……助かった。

彼女は私に手を差し伸べてくれた。

暖かい手を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る