第3話 マリア=ダルーペ
上官の命令の後すぐに支度を済ませ、自分の持ち場であるビルから出たはいいもののいざ敵陣を目の前にすると緊張で心臓が口から出てきそうなそんな感覚に襲われた。敵にみつからないよう建物から建物へ慎重に移動する。途中物音を立ててしまい、終わったと絶望したが、幸いにも敵の兵士は来なかった。すぐ真横では味方の戦う声や銃声、悲鳴が聞こえる。
頼む、誰も私を見るな……。
一歩、また一歩……足を前へと突き出す。
三十分後、目的の場所へ着いた。
「はぁ、は……バレてないよな?」
全身が汗でびしょびしょになっていた。手足の震えが止まらない。
あとはスイッチを持って帰る。ただそれだけ。
そう自分に言い聞かせる。
「ふう……」
深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、私は部屋の中に入った。
家の中は閑散としていて食器は割れ、家具は壊れていた。
「ひどい有様だな……」
少し落ち着いた私は余裕を持って部屋を見渡した。
その直後だった。
「っ?! 誰だ……」
私の視界の片隅で何かが動いた。
私は反射的に腰のガンホルダーから拳銃を取り出し、構える。
そして、物音を立てないように近づく。
「……は」
そこには私とほとんど年が変わらないであろう少女がいた。
雪のように白い髪に繊細で壊れてしまいそうなくらい優しい青色の目を持つ少女だった。
なんでこんなところに……。
少女はひどくおびえており、羽織っているコートを強く握りしめていた。
「__、____」
彼女は必死に何かを伝えようとするが、私には理解できなかった。
それもそのはず、彼女はソレ国の人間である。
メース語を母語とする我々にソレ語は理解できない。
でも今はそんなことどうでもいい。
「仕方が無いんだ。許してくれ……」
彼女の顔に銃口を向ける。すると彼女は涙を流し始めた。体の震えは先ほどよりも強く、大きくなった。
私は彼女の命を握っている。
目の前の彼女をみて、そう強く思う。
撃って終わりだ。撃てば彼女はただの屍になる。引き金を引けば……。
「っ……うっ」
拳銃を持つ手が震える。早く彼女を殺さないと敵の兵士が来るかもしれない。来るかもしれないのに……引き金を引けない。
「____」
私は……私は彼女を殺していいのだろうか?罪のない一般市民を殺していいのだろうか?
「__! ____!」
「あ……」
いつの間にか、彼女が私の防寒用のコートを握っていた。
言葉は知らなくても何を言っているのかは手に取るように分かる。
「っ……」
彼女を殺せば敵に報告されなくてすむ。でも彼女はただ逃げ遅れただけ。鳴り止まない銃声に日々おびえて隠れてただけ。そんな彼女を殺す権利が私にあるのか?ないんじゃないのか?でも彼女を殺さないと……。
ぐるぐると思考が回る。
「殺さないで!」
「?!」
殺さないで……そう、はっきり聞こえた。
それが幻聴なのか、彼女が発した言葉なのかは分からない。だけどそう、はっきり聞こえた。
ゴトリ。
気づけば私は拳銃を地面に落としていた。
彼女を殺すことは……間違ってる。
そう私の中で完結した。
「……君、名前は? 私はパル=ジェルシャ。」
言葉が通じないと分かっていながら私はなぜか彼女に名前を聞いた。
「マリア=ダルーペ……」
彼女は私の言葉が分かる?いや、違う。いかにも名前らしい言葉を聞いて自己紹介をしていると推測したんだろう。
「!……そっか、マリアっていうんだね」
マリアに微笑みかけると彼女は少しだけ目を細めた。
「マリア。伝わらないと思うけど聞いてほしい。私は」
「私は君を助けたい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます