第32話 31 暖かな珈琲



 最近は、休みの日になると喫茶店に行くようになった。

この町で一つだけの商店街の中にある一軒だけの喫茶店だ。


 いつもホットコーヒーをお願いする。

店の中にはウエイトレスさんが一人だけいる。

無口な人だ。

いらっしゃいませ、何にしますか、ありがとうございました、だけしか喋らない。

ホットコーヒー、と注文すると復唱もしない。

それが何となく落ち着く。


 マスターは、かなり年配の人だ。

白髪を綺麗に分けて、眼鏡を掛けている。

笑顔の素敵な老人だ。


 いつも飲んでいるインスタントコーヒーに牛乳を混ぜるミルクコーヒーも美味しいが、それとは違って、このお店のホットコーヒーは格別に美味しい、ように思える。

珈琲豆を厳選しているのかな?と思って、愛想の良いマスターに尋ねてみたことがある。



「豆は生豆を買って来るんですよ。自家焙煎しているんです。そして、私自慢のブレンドです」


「ブレンドって難しいのですか?」


「いいえ、気に入るかどうかだけですよ」


「それにしても。こんな田舎町で美味しい珈琲が飲めるなんて、びっくりしてます。あっ、田舎町は失礼しました」


「いえいえ、田舎が良いのです。でも、多分、美味しい理由、それは自分で豆を挽くからじゃないですか?」


 そうなのだ。

このお店は、小さなミルで自分で珈琲豆を挽き、サイフォンを使って自分で珈琲を入れる。

雰囲気はとても良い。

また、マスターは、こうも言った。


「珈琲はね、とても良い豆を使い、その豆に応じた焙煎時間やミル、美味しく飲むには、その他にもいろいろありますが最高の珈琲を出すお店は、何処も同じようものなのですよ。最高のものには差がないんです。もしも、差を作るなら、そこは最高のシチュエーションと最高のロケーションしかないんです。珈琲を美味しく飲める雰囲気作りに努めること、それが私達に出来るおもてなし、ですね」


 それで無口なウエイトレスさんが良いのか?

そう思えた。

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