第31話 30 神界?



 平日は、350ml缶に変えて発泡酒を飲むようになった。

物足りないのは最初だけだった。

煙草は?吸ったり吸わなかったり、相変わらずの趣味の禁煙、生まれてから煙草なんて吸ったことがないって言うのは、吸っていない時の嘘。


 ぺペンギンさんにも、そんな嘘をついてきたが、多分、最初からバレていたと思う。

今は、ぺペンギンさんと煙草の煙を燻らせる夜もある。


 晩御飯を終えて、一本の煙草を取り出す。

ぺペンギンさんは、残り少なくなったシングルモルトを嘴で突いている。

煙草は吸っていない。


「ねぇ、ぺペンギンさん、私が看護師を辞めた時の話ですけど、覚えていますか?」


「こないだの話か」


「ええ、人間関係が、って言う話です」


「うん、いろんな所に、いろんな連中が居てるからな」


「どうして、人を苛められる人間が存在するのでしょうね」


「自分が一番正しい、そこまで行かんでも悪いとは思うてないのは確かかもしらんな。戦争なんか、史上最悪の虐めやろ?」


「ですね・・・、虐めなんて言葉で済まないと思いますが・・・。何か新しい仕事を始めようとした時、それが気になって動けないんです」


「トラウマ、言うやつかな」


「ええ、その通りかもしれません。何か良い方法ってありますか?」


「ええ方法かどうかは分からへんけど、いくつかの方法はある。どれも自分に合うかどうかは分からへんけどな」


「どんな方法ですか?」


「せやね、三つの方法がある。でも、合う合わんはあるで?」


「教えていただけますか?」


「うん、ええよ。まず一つは。無くすことや。存在そのものを無くすことや。視野に入れへんって言うことや。それでも、そんな酷いこと出来る奴は必ず寄ってくる。それでも、視野に入れへんっていうことや。上手くいったらやで、上手い事いったら、そいつはほんまに居らんようになる。そこまでいくのに時間はかかるけどな」


「時間て、どれくらいですか?」


「長いよ、1ヶ月や2ヶ月で変わるもんやない。それに、視界に入れんでも。気が折れて視界に入れてしまうこともある。そしたら、また長くなる」


「そうですかぁ、長いなぁ。二つ目は?」


「せやね、全部、相手に返すことや。逆に苛めたれ、言うてるんちゃうで。そんなことしたら自分が傷付くだけや。お前らの世界で、祈り、言うのんがあるやろ? それや。誰々さんへ、私はあなたの仕打ちに耐えられませんので、全てあなたにお返しいたします、どうぞお受け取りください、言うてな祈るねん。その思いが相手に返されて、苛めをやれんようになる」


「そんなこともあるのですか?」


「波動、言うやつや。波動は思いとして外に出ることがある。その思いを相手に返すんや」


「本当ですか? でも出来るかな? 三つ目は? 教えてくださいますか?」


「ええよ、でも、さっき言うたことが信じられへんねんやったら、もっと信じ難いかもしらんけど、ええの?」


「ええ、聞いてみるだけでも、聞いてみたいです」


「せやね、信じるか信じひんかはお前しだいやしな」


「はい、信じられなくても、やってみるだけやってみたいです」


「あははは、今、お前を苛めてる人なんて居らへんのにか?」


「いつかのために、です」


「分かった分かった、ほな言うで。お前らの世界には、守護霊とか守護神とか居てはるんやろ? その霊と神に祈るねん」


「ええ?」


「そないにびっくりするな」


「でも、教えてください」


「焦るな、今から教えたる。言うで、西に向かって3回お辞儀して、3回柏手打ってからな、両手を合わせて、◯◯さんの守護霊様、守護神様、私□□に酷いことをしないように◯◯さんにお願いしてください、ってお祈りするねん」


「おまじない、ですか?」


「そんなところかもしらんな」


「効きますか?」


「やってみるだけ、やってみたい。言うたんは誰や?」


「その方法って、昔からあるんですか」


「日本では古来からあるらしいよ。ワイが修行中にお寺さんで聞いた話や」


「本当ですか?」


「修行中いうのは嘘やけどな。せやし、信じられんねんやったら、やらんかったらええやん」


「何も方法が見つからない時があったら、やってみます」


「それでええよ」


 そう言うと、ぺペンギンさんは、残りのウイスキーを飲み干した。

でも、このペンギン、いやぺペンギンさんなら、本当に修行を積んできたのではないかと思えてくるのは何故だろう?

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