第26話 25 その後
最近は毎晩ぺペンギンさんの晩酌のお供をさせてもらっている。
と言っても、もともとお酒を飲む訳でもない。
だから、晩酌のお供をさせてもらってると言っても、発泡酒500ml一缶だけだ。
おかげで少ない給料でも少しづつではあるが、貯金もできていたのに、今は生きるだけでカツカツだ。
「ねぇ、ぺペンギンさん。今は生きるだけで充分だ、って言ってたじゃないですか」
「うん、言うたで」
「生きるだけで良いのでしょうかねぇ」
「なんと! お前の口から、そのような言葉が」
「いえ、駄目だと言ってるのではないのですけどね」
「ふむふむ」
「なんかねぇ」
「ふむふむ」
「・・・・・・・。」
「なんか、物足りひんようになって来たとか」
「どうなのでしょうねぇ」
「教えたろか」
「久々に」
「あのな、何でお前がそんな気持ちになってきたか教えたろか」
「久しぶりにお願いします」
「それな、お前、希望に触れてしもうたからや」
「希望、か、・・・」
「うん、今は落ち着いて来たから言うけど、葉子ちゃんのことな、あん時、お前は生を実感してたんやないかな」
「ええ、今でも思い出すと辛いですけど。確かに生きるって素晴らしいこともあるんだなって」
「それな、希望に触れてしもたんや。それまで、どうでもええ生き方やとまでは言わへんけど、生きてることに満足できてたら、それだけでええ、って言う生き方してたやん。でもな、一回、希望に触れてもうたら、どうしても、それだけではあかんようになってしまうねん。苦しい時、悲しい時、辛い時、いろいろあると思うけど、そこから這い上がろうとしてる時は、物足りひんもんなんてないかもしらん。人はな、何かを与えられた時、すっげー喜ぶねん。でもそれを失った時、めっちゃ物足りひんように思うてしまうねん。もともと無いものやのに。与えられたものが、どれだけ大切なものやったかは、それを無くした時に解るようになるもんや。今のお前がそうやろ? 遼太郎。無いところに何かを与えられて、与えられたものがなくなった時、まるで全てを失ったかのように嘆く、そんなもんやと思わへん?」
「はい」
「うん、お前が今まで生きてきた生活はな、自死に失敗してから、無いものから始まった生活を続けて来ててん。もともと無いねんから、失うものもない。最初から希望もないから欲しがる事もない。でも、葉子ちゃんが現れてからお前は変わり始めた。違うか?」
「いいえ、いや、はい、そうです」
「そう。お前は与えられたんや。一瞬やけど幸せをな。お前かって与えられることもあるんや。残念やけど、それを失ってもうたけどな」
「・・・・・・・。」
「そろそろや、随分回り道してもうたけど、回り道は人生の近道でもある。そろそろや、探してみいひんか? 希望、って言うやつを。お前のためのお前の場所を、希望を持って、死ぬ前に見つけてみたらどうや?」
「辛いです」
「それは、やっとお前が感性を表面から内部に届けれるようになったからや」
「・・・・・・。」
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