第22話 21 愛情弁当
次の日、葉子さんはお弁当を作ってくれていた。
休憩室の冷蔵庫に、遼太郎、とワープロで打ったようなメモを載せたお弁当箱。
今日のソーセージはウサギさんだった。
ただ、美味しかった。
他に言葉が出なかった。
喫煙室で会えばお礼を言おうと思っていたが、今日は会うことがなかった。
お弁当箱は紙製のもので使い捨てだ。
簡単でいい。
仕事が終わり、部屋に戻ると、ぺペンギンさんとの約束が気になった。
しょうがない。
会えなかったのだから・・・。
その代わりと言っては何だが、帰りは魚屋さんに寄ってマグロの刺身を買って帰った。
それでも、やっぱりぺペンギンさんは怒るだろうなと思った。
昨日の夜の約束、とても喜んでいたように思える。
私は、マグロを小さく切って、氷と一緒に金色のお椀の上に置いた。
私が今夜もコロッケをフライパンで焼いていると、
「お、マグロやん。今日はお祝い事か?」
と、ぺペンギンさんがはしゃいで目覚まし時計型シェルターから出てきた。
「すまんね、お前は毎晩コロッケやいうのに」
私は、コロッケをお皿に乗せて、昨日の残りの冷やご飯と一緒にちゃぶ台の上に置いてから、ぺペンギンさんに謝った。
「コロッケ、好きだからいいんです。それよりも、今日、お弁当を作ってもらえまして・・・」
「ええやん、良かったやん」
ぺペンギンさんが素直に喜んでくれた分、私は素直に言えなくなってしまう。
「しかし、昨日は白子で、今日はマグロって、なんかワイだけ贅沢させてもろて悪いなぁ」
「済みません、お弁当は貰えたんですけど、ぺペンギンさんのお弁当を頼むことができませんでした。御免なさい」
「そら、せやろ。ただでさえ、もう一個お弁当作ってくれ、なんて言いにくいのに、ペンギン用のお弁当やから鮮魚でお願いしますって、どう考えてもおかしいやろ」
「あ」
「あ、って。お前、気ぃ、つかへんかったん? たまには、その空っぽの頭使ったら? あ、空っぽやから動かんか?」
「あの、頭のことは別にして、ならば、どうしてお弁当の催促を?」
「あのな、お前にな、感謝の意味を教えたろと思ってな」
「はぁ」
「ええか、息子さんと二人暮らしのシングルマザー。それだけでも人目を引くような世の中や。世間は、まだまだ、そんな人らが居てる。それでも、お前に残り物やけどや言うてお弁当を作る。これ、普通か? よう考えてみ? 有る、いうことが難しいから、有難い、っていうんやろ? 子供のお弁当の残り物や言うて、大人一人分のお弁当を作る、なぁ? 残り物で大人一人分のお弁当なんか作れるもんやないやろ? それに何? 紙製の弁当箱は使い捨てできるから便利やて? ドアホ! お弁当箱を返すところを誰かに見られへんようにとの配慮やと思わんかったんかい!」
「う」
「うん、分かったね? お前は、彼女の一言で喜んだ。そこに感謝の気持ちが在ったか? ちょっとくらいは在ったかもしらん。でも、ちょっとだけや。喜びの方が先や。感謝の気持ちが在ったならやで、その彼女の好意をもっと強く感じたんやないやろか? ワイが拗ねたんは、お前の喜びに相手への思いやりを感じられへんかったからやねん。ワイの分のお弁当なんか作ってもらえるわけあらへんやん。当たり前やろ! そんなお弁当をお前は作ってもらえるんやって言うことに、彼女の気持ちへの感謝が足りなさすぎるわ! って言いたかったんじゃ! このスッカラカンが! 今から山戻って、リスと一緒に木の実でも集めてこいや!」
「そうか! 木の実を集めてプレゼントすればいいんだ!」
「いつもながらお前の発想にはびっくりさせられるわ・・・、まじ、底抜けやな・・・。行って来い、山やのうて、あっちの世界へ行って来い」
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