第11話 10 真夜中



 ぺペンギンさんと缶詰と炊いた米を食べた。

食べ終わるとすぐに眠りつけた。


 そして夢を見た。


 あの時と同じように妹と犬が出て来た。


 妹は両膝をつき、その横でおすわりをした犬がこちらを見ている。


 やがて、妹が喋り出す。


「お兄ちゃん、疲れているよ。でも、大丈夫。こっちへおいでよ。一緒に暮らそ。此処には、あんなお父さんやお母さんも居ないよ。苛めもないよ。おいでよ」


「ああ、行こうと思ったんだ。でも、失敗しちゃったよ。ごめんね」


「いいよ、お兄ちゃん。次があるもの。今度は、ちゃんとしなきゃね」


「それが、ちょっと」


「どうしたの? 早くおいでよ、ずっと待ってたんだよ」


「今は、死ねない」


「どうして?」


「頼む、もう少しだけ、もう少しだけ試してみようと思うんだ」


「もう十分、試したよ。でも、誰も助けてくれなかった。分かっているでしょ? でも大丈夫、ここは試しとかの試練もないよ」


「違うんだよ、試練とかじゃないんだ。意味なんかなくてもいいんだ。ただ、生きてみようかって、だから、そっちに行くのは、もう少しだけ待って欲しいんだ」


「いやよ、どうしたの? お兄ちゃん? いつも、どんな時も二人で耐えて来たじゃない? ほんの些細な幸せだって二人で分けてきた。お兄ちゃん、私、今、此処で一人きり、隣にいるヒデだって寂しがってる。おいでよ、お兄ちゃん」


「駄目なんだよ」


「お兄ちゃん」


 そう呼ぶ妹の横で、飼い犬のヒデの目が眼窩から抜け落ちた。

妹の声が変わっていき、男のような声になっている。

妹の頬は既に削げ落ち、いつの間に眼球が落ちたのか、暗い眼窩が見える。


「嫌だ、死にたくないんだ」


 私は、叫び声を上げて、木でできただけの硬いベッドから跳ね起きた。

汗だらけの体で、深く何度も呼吸をしていると、小屋の窓から外を眺めているぺペンギンさんの背中が見えた。


「まだ暗いで。起きるには早かったな」


「ぺペンギンさん」


「ワイは夜行性やないけど、眠られへんかってな。お前も、その様子ではゆっくりと眠れたようには見えへんな」


「妹が・・・」


「夢見たか。でも、それは悪夢やないと思うで。夢から覚める前に現実を見せられただけや」


 さらにぺペンギンが続ける。


「明日、山を降りよう。ワイが相談に乗ったことのある死に損ないのおっさんがおるねんけどな、そいつはお前とは違うけど、やっぱり死んでもええ、って思うて山に入りよってん。けど、道に迷うた途端に下山の方法を必死で見つけようとしよってん、死にたいって思うてた人間がな。下山しよったよ。この汚れた世界にな。でもな、汚いだけの世界でもない。そんなもんや。山を降りるで、もう一回寝とき」

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