第9話 8 社会人
3年浪人して、医学部には学力が届かずであったが、看護大学には入ることができ、そして卒業。
就職は総合病院。
覚える事は山積み、そして忙しい。
然し、そんなことはどうでも良かった。
私を悩ませたのは、人間関係だった。
言うまでもなく、ナースステーションには私よりも年下の先輩がいる。
敬語を使ってくる先輩もいた。
体裁?
ざっくばらんに普通に話しかけてくる先輩も居た。
フランク?
どちらも大した差はない。
礼儀?世間知らず?
大差はないのだ。
礼儀が有ろうが無かろうが、その心が見える。
要するにどんなに形を作っても奴らには分からない。
教育?教えて育てる。
教えることは簡単にできても、育てることの難しさを知っちゃいない。
随分と年嵩のいった看護師長だって、そんなものはどこ吹く風だ。
私は、どんな相手でも笑顔で接してきた。
体裁とか言ったものでではない。
心の真ん中で人を馬鹿にした。
私は医学部を落ちたから此処にいるのだ。
お前らほど程度は低くない。
お前らには分からないような経験をして、本だってお前らの100倍くらい読んできた。
そして身につけてきた知識と経験はお前らの薄っぺらい人生とは比較にならない。
立っている土俵が違うのだ。
そう思うと平気ではなかったが、笑顔を作ることができた。
本当に看護師に向いている奴っていうのは、しっかりと勉強して国家試験に合格した奴らじゃない。
看護大学を卒業すらできなかった連中だ。
奴らの方が人間味があった。
少なくとも社会人になった今の私には、そう思えた。
「お前、言いたい放題やな。どんだけ看護師嫌いやねん」
「済みません。看護師が嫌いじゃなくて、そこで働いている人が嫌いなだけだと思います」
「他所行ったら、そうでもなくなると?」
「分かりません」
「案外どこ行っても変わらんかもしらんな。せやけど、案外変わるかもしらん」
「本当ですか?」
「そこで働いてる人らは、その施設の方針に基づいて働いてる。その施設に問題がある時もある」
「施設が変われば・・・」
「それともう一つ、分かってると思うけど、お前や」
「はい、でも、そう思わないと、やっていけない時もあります」
「分かるよ、人は人に対して、それなりの礼を尽くして付き合って行かなあかん。職場っていうところは、それを失わせる場でもあるしな」
「・・・・・・・・。」
「言うたやろ? 施設の方針、上司部下、先輩後輩、そこに自然体の本来の人間は存在するやろか?」
「・・・・・・・。」
「人が存在して、そこに先人がいて、後続する者がいる。後から来る者のことが気になるから育てようとする者がいてる。そうやって同じ思いの者が集まって、収拾がつかんようになる前に規則を作る。そう思わん?」
「逆ですか?」
「そうや、まず施設の方針があって、そこに早くからいてる奴がお局になって、そこへ新しい奴がやって来る。それだけや」
「分かりません」
「分かろうとしてへんだけやんか。お前みたいな奴は、お前一人だけやと思うか? 結構ようさん居てるねんで? そいつらがどんな思いを抱いて生きているか? お前やったら分かるんちゃうかな?」
「そう、かも、しれません」
「それを理解って言うんやで。それやったら分かるやろ?」
「はい、そこだけでしたら」
「そこだけかい!」
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