第5話 4 不和
夫婦喧嘩が始まる度に、私は幼い妹を抱いて部屋の隅に縮こまっていた。
母親は嘘つきで、父親は傲慢そのものだったと思う。
喧嘩が始まると、段々に声が大きくなっていき、母親は冬でも窓を開けて、
「近所の人に、その傲慢な声を聞いてもらうがいい」
そう言いながら、ありとあらゆる窓を開け放っていく。
流石に此の攻撃に父親は
そして父の声は、最初と変わらないくらいの大きな怒鳴り声に戻っていく。
最初の頃は近所の人も止めに来てくれたが、とうとう誰も来てくれなくなった。
子供たちがどんなに辛くとも、やはり夫婦喧嘩は犬も食わない、である。
毎晩のように喧嘩ばかりしている夫婦、そこに住んでいる二人の子供を不憫には思っても手の出しようもなかったのであろう。
そして、喧嘩の結末は、母が包丁を台所から持って来て
「殺せー」
と声をかぎりに叫ぶ。
父は堪らず、外へ出て行き、誰もが寝静まった真夜中過ぎに帰って来る。
次の日は、会社にも行かず眠り続ける。
そんな父だから一つの会社で長く続くこともなかった。
それどころか、一生の中で働いている時間の方が短かったのではないかと思う。
そんな経験から私は家族は欲しくないと思いだしていた。
そんなことには構わずにペンギンさんが話しかけてくる。
「結婚はするつもりかな?」
「いいえ、懲り懲りです」
「ちゃうな、お前は結婚するよ」
「有り得ません」
「うん、せやね、お前さぁ、父親と母親のこと好き?」
「好きになれる訳がないじゃないですか」
「小さかったのに、細かいことまで覚えてるやん。それってさ、ほんまはさ、父親と母親に愛されたかったからちゃうのかな?」
「無いです」
「今も両親のことが嫌いやとしとこ。でも、あん時は悪かった、って両親が両手をついて謝って来たらどうする?」
「先ず、それは有り得ません」
「もしも? やで、その有り得へんことが起こったら、お前は必ず両親を許してしまうやろな」
「いいえ」
「いいえ、でもええよ。せやけど、お前は結婚する。両親を憎んでても結婚する。その理由は、お前の心の中に存在し続ける温かい家庭や。お前が夢見た場所や。そんな家族と共に温かい時間を過ごしたい。その希望は必ず叶えられる。それはな、やっぱりお前は愛情に飢えてたからやねん。だから愛する両親を恨み続ける結果になってしもうたんや。どうしても恨みを消されへんって言うんやったらな、許すことができひんって言うんやったらな、感謝くらいはできるやろ。その思いは、お前が家族を持った時に理解できてくる。お前がお前の家族と幸せに過ごせたんは、お前が産まれて来たからやってな」
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