第2話 1 序章



「ほんで、こないな所に居るねんな?」


「はい」


「こんな深い森の中で、でかい木に太いロープぶら下げて」


「はい」


「死ぬな、言うてるんやないねんで。死にたかったら死んだらええ、って言うのもちょっとちゃうねんけどな」


「はい」


「そこは、はい、やなくて、どっちやねん! とちゃうの?」


「そうかもしれません」


「おお、やっと、はい、意外の言葉喋ったやん。それを成長って言うんや」


「そうでしょうか」


「うーん、ちょっと違うかもなぁ」


「どうして死ぬのを止めたんですか」


「それや、そこなんや。ワイな、止めに来たんちゃうねん。ちょっとだけ延期にしてみいひん、って言いに来たんよ」


「どっちにしても同じことです」


「なるほど!」


 と言って小さなペンギンが小さな翼を叩く。

そして続ける。


「まぁ、さっき聞いた話は、死にたい、だけやったわな。死にたいほど苦しい、とか、悲しい、そんなことではなかったよな。死にたいほど、ではなくて、死んでやる、みたいな感じやんな?」


「感じではないです」


「感じではないか・・・。ほな、思い込み!」


「思い込みなんかじゃありません」


「勘違い!」


「間違ってなんかいません」


「理想!」


「死に行く場所に理想なんて持っていません」


「夢!」


「誰が夢見て自死しますか」


「希望!」


「それがないから、ここへ来たんです。馬鹿にしてるんですか」


「やったやん!お前、自分で答え出したやん。何を血迷ってこんな所に来たんか知らんけど、他に行くところが無いから此処へ来た。ほんでもって、此処から行く別世界にも夢も希望も持ってない! ほな聞くけど、死んで何処へ行って、彷徨うろつこう思うてたん?」


「・・・・・・・。」


「ほんならさぁ、それやったらさぁ、行く所ないんやったらさぁ、ちょっとワイに付いて来てみいひん? そこで、落ち着いて、それでも死を考えるんやったら、ワイはもう止めたりしいひんし、場合によったら手伝ったるで? 約束するからさぁ。ちょっとだけ付き合ってくれたらさぁ、ワイ、嬉しいねんけど、どうよ?」


 彼は、頷きもせずに、下を向いたまま立ち上がった。


「手伝うって、何なんですか・・・」


 そして、この物語が始まる。

 

 然し、貴方にとって、この物語が毒にならなければ良いのだが、それだけは心配している。

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