第130話 ホルト師団長の日記

 お面を食事用の口の部分が無いものにかえ、みんなで肉串を食べながら色々な屋台を見て歩く。売られているアクセサリーや古着を、みんなでお喋りをしながらわいわい見るのはとっても楽しい。


「今度は喉が渇いちゃったね。赤ワインでも飲もっか?」


「ジュリア、駄目だよ! ケイさんが大人になるまでは、お酒はあんまり飲まない方が良いって言ってたじゃん」


「あっ! そっか、今まで、そんなこと気にした事なかったから忘れてた」 


 飲める水は手に入りにくく、私たちには薄めたワインを飲むのが当たり前だったのだが、ケイが言うには飲むものがないなら仕方がないが、子供の私たちにはあまり良くないらしい。


「それなら……ジュリアちゃん、ちょっと待ってて」


 そう言うとマヤが果物の屋台に走っていき、何かを受け取るとこちらに戻ってきた。


「レモン? どうするの?」


「みんな道の端でコップを出してくれる? ケイさまに教えてもらったの。喉が渇いたらやってみると良いよって」


 えっ! 私は教えてもらってないけど……少し不満に思いながらも、マヤの言葉にしたがい全員が道の端に行き、鞄からコップを取り出す。


「みんなコップを近づけて、いくよ~。エイッ!」


 そう言ってマヤが短杖をかざすと、コップの上に子供の頭ぐらいの大きさの水の球が突然、浮かび上がりザパッと落ちる。


「「きゃっ!」」「わっ!」


「あ~みんな、ごめんね、まだ上手く扱えなくて……」


「すご~い、マヤちゃん、水も出せるようになったの?」


 ルーナがそう聞くと、マヤがみんなを集めて小声で教えてくれた。


「ケイさまに渡された水が出せる腕輪のおかげだよ」


 なるほど、マヤがケイに渡されてた腕輪の一つの能力がこれなのね。他の二人も頷いて感心している。そしてマヤは鞄からナイフを取り出すと手早くレモンを半円状に切り、みんなに配っていく。


「さすがに全部をいれると酸っぱすぎるかもだけど、今の水に少し絞って飲んでみて」


 言われるままに、各々、自分のコップにレモンを絞って飲んでみる。


「わっ! すっぱ! 入れすぎたかも! でも、おいしいね」


「うん、なんか、すっきりして飲みやすいね」


「うんうん。飲みやすい」


「残りのレモンは取っておくから、また、いつでも飲みたくなったら言ってね」


「ありがとう! 喉が渇いたらお願いするね。あっ! そうだ! マヤ、レモン幾らだった?」


「えっ! いいよ! 安かったし!」


「良くないよ! お金に関しては友達でもちゃんとしないとっていけないよって、ケイも言ってたし……じゃあ、次の時は私が払うね」


「じゃあ、ジュリアの次は私が出すね」


「えっ! えっ! じゃ、じゃあ、ルーナちゃんの次は私が出すね」


「「「「…………ぷっ! あははは」」」」


 焦るマルチナが可笑しくて、少しの沈黙の後、また、みんなで大笑いした。





 ♦ ♦ ♦ ♦





 【秘密の部屋】にずっといると、レッドキャップの侵入に気付かないかもしれないので、今は使わせてもらっている客室でホルト師団長の日記を読んでいた。ニャンニャンはというと何やら本を出して、魔法陣の解析を頑張ってくれている。


 そして、ホルト師団長の日記の内容なのだが、最初の方は毎日ではなく、たまに食事のメニューが書かれていたり、魔物の討伐について書かれていたりと、本当に気の向いた時にしか書いていない感じだった。しかし、ある日を境にして内容が一変する。ことの始まりはどうやら、パトリシア様が彼の夢に現れ、『本当はあなたと結ばれたかった』と告げられたのが切っ掛けらしい。そこからはほぼ一日も欠かさずパトリシア様への思いが綴られ、更にはパトリシア様の一日の行動が事細かく記されている日もあり狂気を感じる。そして、後半は二人の愛の妨げとなっている男爵を、どうやって亡き者にするかの犯罪計画書へと変わっていく。


 えっ? こわっ! これ夢の話を真に受けちゃったって事? 夢に出てきたクラスメイトを、ちょっと好きになっちゃうっていうのは聞いたことがあるけど、これって思いっきりストーカーになっちゃってるじゃん。


 日記が計画書に変わった当初は、男爵を毒殺するとか殺し屋に襲わせて始末させるとか安易な計画が書かれていたのだが、またしても夢の中に現れたパトリシア様の言葉に影響されたようで、計画が男爵領の乗っ取りへと変わっていく。それで、まずは傀儡にして操ろうとしたようなのだが、ホルト師団長の知識や技術ではかなり難度が高かったようで断念したようだ。そして、次に思いついたのが男爵を始末した後、自分が男爵に化けるという事で、その為に変身魔法の付与された魔導具を大金をはたいて探したようなのがこれは見つけられず、今度は変身魔法にたけた妖精や悪魔を調べていき、最終的に一番御しやすそうなゴブリンにたどり着いたようだ。


 ふ~む……男爵の姿を使って成り代わろうとしたって事? この世界の爵位のシステムが良くわかってないんだけど、何でこの人はこんなに回りくどいことしているんだろうか? ただ始末しただけだと、再婚できても爵位が息子にいっちゃうとかなのかな? そんな事の前に、パトリシア様がホルトと再婚する可能性は限りなく無いに等しいと思うんだけどね……。動機については本人に聞くのが一番早いんだけど、なぜか命を狙われていた男爵は無事で、その命を狙っていたはずのホルトが行方不明なんだよね…………もう、わけわかめ。もしかして、あの男爵はすでにホルトだったりするとか? 考えれば考えるほど疑問が溢れてきて、わけが分からなくなっていく。


『誰か来たのです』


 ニャンニャンの念話で顔を上げると、丁度、扉がノックされる。返事をして扉を開けるとリオスさんから要件を告げられる。


「お休みの所、申し訳ありません。門にケイさまの親族と名乗る女性が現れたのですが……」


「はっ?」

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