第129話 屋台のおばあちゃん

 レッドキャップの落としていった袋は一見、薄汚れた革の巾着にしか見えなかったのだが、鑑定してみると複数の魔法陣が隠されており、とても貴重なマジックバッグだったと判明する。そこで魔法陣の解析の方はニャンニャンにまかせて、オレは中身を調べる事にした。すると、知り合ったゴブリンが無くなったと言っていた杖が入っていることに気づき、とりあえず袋から取り出してみる事にする。




 え~と擬態の杖を意識して『アポート』と……。そう念じた瞬間、袋に突っ込んでいた右の手のひらに木の棒のような感触があったので握りこみ袋から引き出す。すると明らかに袋には入らない長さの杖が姿を現す。




「うわっ! 気持ち悪っ!」




 その杖の先端には何の生物かは分からないが、数匹? の小さな頭蓋骨が装飾として使われていた為、思わず声を上げてしまった。




「何なんです? その薄気味の悪い杖は?」




 オレの声に反応して、こちらに顔を向けたニャンニャンも杖を見て顔をしかめる。しかし、杖の正体を擬態の杖だと伝えると、興味を失ったのか魔法陣の解析に戻ってしまった。オレの方も杖を取り出したものの、そもそもミドリンたちの杖の実物を知らず、見ても分からなかったので鑑定だけをして杖を袋に戻した。




 多分、ほぼほぼ、ミドリンたちの杖だろうとは思うけど、今は疲れているから説明とかするのも面倒くさいし、もう少し状況が落ち着いてから鈴で召喚してミドリンに確認する事にしよう。代わりの杖を渡してあるから、すぐに返さなくても平気だと思うし……。それから、しばらく一覧表をながめた後、オレは大きな溜息を吐いて立ち上ると、何か食べるものを作るためにキッチンに向かった。




 






 ♦ ♦ ♦ ♦










 わたしたち四人は、ケイさまから頼まれた荷物を届け終わり宿へと向かっていた。その中で少しだけみんなから離れて歩くマルチナに声をかける。




「マルチナ、さっきはごめんね! もう機嫌直してよ!」




「わたしもごめんね」「マルチナさん、わたしも笑っちゃってごめんね」




 わたしが謝ると、ジュリアちゃんとルーナちゃんも一緒に謝ってくれた。




「……もう、いいよ! 多分、逆の立場なら笑っていると思うし……」




「そうだよね! マルチナってば緊張しすぎて何言ってるか分からないんだもん! あははは――」「――ジュ、ジュリア……そんな事言っちゃ可哀そうだよ………………」




 それをきっかけに、先程、マルチナが余りにも何を言ってるか分からなすぎて執事の人に『王国の言葉が分かる方はいませんか?』と言われた光景を思い出し、みんな必死に笑いをこらえる。




「あ~みんな、ひどい! また、そうやって笑う! ……わたしも途中で何言ってるか、分からなくなっちゃったけど……ぶふふ」




 マルチナも怒っていたのだけれど、自分でもおかしいと思っていたのか笑いが止まらなくなり、そこで四人で大笑いして、無事仲直りが出来たのでした。




「ふ~っ……お腹痛かった! えっ? ルーナ! 何で泣いてんのよ」




「えっ? 可笑しくて……」




 ルーナちゃんはお面を頭にずらして涙を拭いている。




「そんなことより何か笑いすぎたらお腹空いちゃったね? 宿の夕食までまだ時間あるし、なんか屋台で食べていかない?」




「「「賛成~」」」




 ジュリアちゃんの提案にみんなで賛成して、屋台へと向かった。










 ♦ ♦ ♦ ♦








 


 屋台の並ぶ大通りにたどり着くと美味しそうな匂いが漂い食欲が刺激されて、みんなのお腹がぐうぐう鳴り始める。通りに一歩入れば客引きの声が私たちにもむけられ、ついこの間まで私たちを邪険にしていた店主たちも、人が変わったかのように笑顔で声を掛けてくる。


 


「そこの仮面の冒険者さんたちもどうです! この街一番の串焼きだよ」




 ジュリアはそんな呼び込みに見向きもせずに、みんなを集めて小声で話し始める。




「どこにしようね? 何、食べたい? でも、今、声を掛けてきたお店は無しね! 私とルーナが前に来た時に、お店の前を通っただけで『盗んだら腕の骨をへし折るぞ』って言われたの!」




「えっ! 二人も言われたの? 私たちはただ通っただけで『物乞いは他所でしろ!』とかだっけ? 言われたよね? 今はケイさまにもらった服を着てるから、お金を持ってそうに見えたのかな? すごい態度の変わりようだよね」




 どうやらマヤとマルチナもあの店主には、酷い事を言われていたみたい。他にも私たちに意地悪な態度だったお店を教えあって、絶対そこでは買わないようにしようと四人で約束した。その後、どの屋台にするかという話になり、唯一知っている屋台に行かないかとみんなを誘ってみる。するとみんなは二つ返事でオッケーしてくれた。


               


 その屋台を知ったのはこの街に来たばかりで、お金もなく食べるものも泊まる場所もなくルーナと街をさまよっていた時だった。そんな私たちに気付いて『この街は初めてかい? 売れ残りだけど、持っていきな』と言って無料で串焼きを食べさせてくれて、さらにはギルドや教会の炊き出しの事も教えてくれたのが、その屋台のおばあちゃんだった。その時のお礼も兼ねて、また行ってみたいと思っていたので良い機会だったかもしれない。




 大通りから少し路地に入った場所にある屋台にたどり着くと、革鎧や金属鎧を着た冒険者風の三人組がそのおばあちゃんから肉串を買っていて、丁度、そのやり取りが聞こえてきた。




「ばあさん、釣りはいいから、いつものように腹を空かした子供たちにも食べさせてやってくれ!」




「グランツさん! いつも、ありがとうございます。ほら、この冒険者さんからお代を頂いたから、取りに来な! ちゃんとお礼を言うんだよ」




 歓声とともに路上に座っていた子供たちが立ち上がり、屋台に殺到する。




「ありがとう」「ありがとうございます」「グランツさん! いただきます」




 それぞれが感謝の言葉を伝え、ハフハフと肉串を受け取り食べ始める。もしかしたら、このおばあさんが私たちに肉串をくれたのは、こういった冒険者の人たちのおかげもあったのかもしれない。




「お前たちも大きくなったら、オレと同じことをしてやってくれ。それじゃ、おまえら、またな! おっと! これは失礼した」




「いえ……」




 そう言って頭を下げる。




 その冒険者は振り返り私たちにぶつかりそうになると、一瞬、眉を上げて驚いていたものの、謝罪をして去っていった。その後ろの二人の冒険者たちも無言でそれに続き、さりげなく肉串を食べながら、私たちを上から下まで探るように見ながら通り過ぎていった。




「おまたせしました。何本、ご用意いたしましょうか?」




「おばあちゃん! 私とルーナの事、おぼえてる?」




 私は仮面をずらすとルーナに目で合図を送り、ルーナにも仮面をずらさせて、おぼえているかおばあちゃんに顔をみせてみる。




「…………最近、メイザから来た二人かい? ほんの数日でえらい大出世したもんだね? 服も上等だしまるでお貴族様だね」




「えっ? おぼえてくれてたの?」




 もしかしたら、忘れられてるかもと思っていたので少し感動した。




「数日前の事を忘れる程、まだボケちゃいないよ! けど私の親友だった子がメイザ出身だったから、それもあってよく覚えてたってのもあるね」




「そっか……私たちおばあちゃんに助けられて、今は仲間が出来て頑張っていけそうなの。だから、お礼が言いたくて」




「あたしは何もしていないよ! それは全部あんたたちが頑張って手に入れたものさ。で、これからどうしていくんだい? 冒険者になるのかい?」




「う~ん! 多分! そうかな? ね、ルーナ!」




「そ、そうだね。多分……」




「だったら、絶対に無理だけはするんじゃないよ! 報酬や名声欲しさに無理して、帰ってこなかった冒険者は山程いるからね」




「それなら大丈夫! 同じパーティーの副リーダーに今、色々、習ってる所だし」




「それなら安心だね。後ろのお二人がそうなのかい?」




「あ~違う違う! 二人も同じで習ってる所。こっちがマヤでこっちがマルチナ」




 二人も仮面をずらして、挨拶をする。




「今度はしっかり覚えたよ! え~と、マヤ、マルチナ、ルーナ、で、あんたは……」




「ひど~い! ジュリアだよ」




「あはは、冗談さね! ジュリア、ちゃんと覚えてたよ」




 絶対にこのおばあちゃん、わたしの名前忘れてた。ひどい……。





 ♦ ♦ ♦ ♦


みんなの呼び方

・ニャンニャン→ケイさま、ジュリア、ルーナ、マヤ、マルチナ

・ジュリア→ケイ、ニャンニャン、ルーナ、マヤ、マルチナ

・ルーナ→ケイさん、ニャンニャンちゃん、ジュリア、マヤちゃん、マルチナさん

・マヤ→ケイさま、ニャンニャンちゃん、ジュリアちゃん、ルーナちゃん、マルチナ

・マルチナ→ケイさま、副リーダー、ジュリアちゃん、ルーナちゃん、マヤ

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