第124話 地下室
当初の予定では馬にのれないオレや、移動の遅い歩兵たちの到着を待ってから屋敷に突入するはずだった。しかし、いざホルト師団長の屋敷に到着してみると、何故か騎士たちはすでに屋敷を出入りしており、運び出した箱を荷馬車に積み上げていた。疑問に思いながらも屋敷に向かうと、入口の所で誰かと話しているグレゴール団長を見つける。
「遅くなりました。今、到着しました」
「あっ! ケイさま! お待ちしておりました。実は……」
団長の話ではまず庭師を塀の外に呼び出し屋敷の中の状況を聞いた所、主人は出かけているが使用人たちはいつも通り働いているという事だったので、執事を呼んでもらい話を聞いたのだという。すると、しばらくは主人を庇ってか協力の姿勢をみせなかった執事だが、今日のホルトの起こした事件と領主の許可がある事を伝えると、観念したのか質問にも素直に答えだし、屋敷に入る事も許可したのだそうだ。……それにしたって、何でこの人は待てなかったのかな……? 何かしらの手柄を立てて、汚名返上をしたかったのかもしれないけど、この執事もレッドキャップだったら、どうするつもりだったのだろう?
「それで今は何をしている所なんですか?」
「とりあえず、新たな犯罪の資金源になりそうな物を、没収する為に全て運び出している所です。それとケイさまが来てからホルトの私室と、最近、こもっていたという地下室を調べようと考えていたのですが、お願いできますでしょうか?」
「……わかりました。じゃあ、案内してもらえますか? え~と、まずは私室からお願いします」
「かしこまりました。では、こちらでございます」
執事の案内で二階のホルトの部屋へと向かう。一応、探索魔法で調べてみたのだが、この屋敷にはレッドキャップのような脅威になる存在はいないようだ。ということは使用人たちは、主がレッドキャップだとは知らずに仕えていたという事……?
そしてある一室の前で立ち止まると、執事は鍵の束を取り出し扉の鍵を開ける。
「ここがホルト様の私室でございます」
まずグレゴール団長が部屋に入り、安全を確認すると中に招き入れられる。それに促され執事と一緒に中に入ったのだが、ベッドと本棚付きの机、そして服を入れている箱が置いてあるだけの簡素な部屋だった。手がかりを求めて本棚や収納の中身も調べてはみたものの、特に気になる物は出てはこなかった。
「う~ん……特に変わった所はなさそうですが、本当にこの部屋を使っていたんですか? あまり生活感がない気がするんですが……」
「それはホルトさまが出掛ける時以外は、地下室にこもるようになってしまったからだと思います……」
「えっ? じゃあ、寝る以外は使ってないって事か……」
「いいえ、ここ何か月かは、地下室以外の部屋には入室さえしておりません。ですから、もしもこの屋敷にいる時に寝ていたのだとすれば、地下室で寝ていたのだと思います。お恥ずかしい話なのですが、ホルトさまが地下にこもるようになってからは会話も一切しておりません」
じゃあ、そのぐらいから既にレッドキャップと入れ替わっていたって事か……?
「じゃあ、とりあえず地下室に行ってみましょうか……」
「かしこまりました。では、ご案内いたします」
移動の間に執事に聞いた話では、昔は地下室を食料保存の為の倉庫として使っていたようだ。ある日、いつの間にか中の食料が通路に運び出され、ホルトはそれから地下室にこもるようになり、使用人たちとは会話すらしなくなってしまったのだという。不審に思い、一度だけホルトの不在時に地下室に行った事があったそうだが、特殊な鍵が掛かっていた為、全く開かなかったのだという。それからは見にすらいっていないとの事だった。
「こちらの扉なのですが……鍵自体は開くのですが、このように一切開かないのです」
確かに鍵を回すと解錠した音がするのだが、その後に執事がその扉を押しても引いてもぴくりとも動く事はなかった。まさか、引き戸ってオチじゃないよね……。
「あれ? ちょっと待って下さい。この扉から魔力を感じるかも……」
何か扉に違和感を感じた為、手をあてて鑑定を始める。すると扉の中央に光る魔法陣のような物が浮かび上がり、情報が頭に流れ込んくる。
「あっ! これか……なるほど……魔力を込めればいいのか」
「そ、そうなのですか……?」
「はい、この魔法陣……魔法円だっけ? ここに水の属性の魔力を込めれば、良いみたいですよ」
「な、なるほど……私には見えませんが扉にそんなものが……」
「えっ……この光っている……あっ、見えないのか……」
団長の言葉に執事も頷いているので、どうやら二人には魔法陣が見えていないようだ。鑑定で光りだしたから、二人にもてっきり見えているのかと思ったのだが、そうではなかったようだ。一応、二人には下がっていてもらって、鑑定の結果に従い魔法陣に水属性の魔力を注ぎ込んでいく。すると扉に働いていた力が突然失われて、部屋の方向にほんの少しだけ開いた。
「開いた……。でも中は凄い真っ暗だ」
「では、燭台を持っている私が、先に――」
「――あっ、大丈夫です」
オレはそう言うと、光魔法のライトを作り出し部屋に送り込む。そして、驚く二人と共に部屋に入っていく。
「こ、これは……」「ホルトさまは一体、何を……」
部屋の中央の床には赤い……多分、血で描かれた大きな魔法陣があり、壁際のテーブルの上には様々な器具と、材料なのか乾燥させられた植物や鉱石が並んでいる。それらも鑑定をしていくと魔法陣は召喚する為のもので、器具は見たまんま蒸留をする為のものだった。乳鉢や空の小瓶なども置いてあったので、ポーションでも作っていたのかもしれない。
「ホルトさんはポーションとかを作れたんですかね?」
「……冒険者の頃は簡単なポーションでしたら、自分で作っていたと聞いた事がございましたが、この屋敷に来てからは作った事はなかったと思います」
う~ん……作れるけどお金持ちになってからは、作ってなかったって事かな……?
「そうだ! ホルトさんの魔法属性ってわかりますかね?」
「……ホルトさまは水の魔術師と呼ばれるぐらい優秀な水の属性の持ち主でした」
水か……ホルトさんの魔法属性が扉にかかっていた属性と違っていたら、この部屋で行われていた事がすべてレッドキャップの仕業で片付いたんだけどな……。とりあえずは何をしていたのか調べるか……。
♦ ♦ ♦ ♦
話のストックがなくなりましたので次回は未定です。
お待ち下さい~。
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