第121話 青く輝く剣

 攻撃をすると返されてしまうので、レッドキャップはこちらを警戒したまま、左右に行ったり来たりしながら様子をうかがっている。団長の奥の手は不発に終わってしまったのだが、武器に魔力を込めるという発想を得られたのは大きな収穫だった。オレは落ちている剣を拾い、さっきの団長の剣をイメージして魔力を剣に込めていく。すると何故か青色に輝く光のオーラが剣を包み、小刻みに震えだし微かにブーンという音が響き始める。


 えっ? 青? 団長の時の光と違う……しかも何か震えてるんだけど……。大丈夫かこれ?


「おい! うそだろ! 青いぞ!」「魔刃なのか? 冗談じゃなくて本当に青く光るんだな……」「まじん? 帝国でも数人しか使えないっていうあれか?」


 団員たちが何やらざわついているが、ここからは聞き取れなかった。


「ギィギィ~…………」


 レッドキャップはこの青く輝く剣を見た途端に後退りし始める。


「逃がすかっ!」


 オレはその剣を上段に構えてレッドキャップに向かって走り出す。するとレッドキャップは今度はなりふり構わずに、こちらに背を向けると空に飛びあがった。


「えっ! 飛んだ……」


 レッドキャップは羽も生えていないのに空に浮き上がった。飛ぶ魔法か?


「ちょっ! 待てぇ~! その飛ぶ魔法と爆発する魔法教えろ~」

 

 レッドキャップは空中でこちらに振り返ると、腰の袋に手を入れて何かをこちらに投げつける。するとそれは地面に当たると大量の煙を吹き出し、地上にいる人々の視界を奪っていった。


「見えてるんだよ! おりゃ~~~!」


 探索魔法で輪郭は赤く縁どられ、レッドキャップの居場所は丸見えだった。そこにジャンプしながら斬りつける。すると剣の青いオーラはレッドキャップにぎりぎりで届き、そしてとらえる。


「ギャ~~」


 大きな悲鳴の後に地面に何かが落ちたような音が聞こえた。攻撃は当たったようだが、レッドキャップの反応はフラフラしながらも上空に遠ざかっていく。流石にもう次の攻撃は当たらないだろう。煙で見通しが悪い中、何かが落ちた音がした辺りに向かうと袋を掴んだ緑の右腕が落ちていた。オレは咄嗟にミドリンたちへの風評被害を防ぐために、【秘密の部屋】への小さな入口をその腕の真下に作り、証拠隠滅の為にそれを回収した。





 ♦ ♦ ♦ ♦ 

 




 程なくして煙はおさまり、片膝をついた団長と落ちている複数の剣が姿を現す。建物の前には防御魔法に避難しているパトリシアさまとその他大勢、そして城の窓にも多くの人間の姿が見えた。どうやら一部始終を多くの人々に見守られていたようだ。証拠隠滅を見られていないといいんだけど……煙で見えてなかったと願いたい。


 想像以上の人に見られていた事実に少しの間、固まってしまったが、すぐさま気を取り直して団長の下に向かい魔力を回復してあげる。

 

「大丈夫ですか? 残念ながら逃げられてしまったようです……」


 手を貸して団長を立ち上がらせると、その他大勢たちから歓声があがり団員たちがこちらに集まり始める。


「これは……」


 団長は力が入るようになった自分の両方の手のひらを、握ったり開いたりして驚いている。


「魔力譲渡の魔法ですね。どうやらあの一撃で大量の魔力を使ったので動けなくなったみたいですね」


「わたしにも魔力が…………はっ! お礼が遅くなりました。あなたのおかげでパトリシアさまも無事で、それに団員共々、命拾いをいたしました。この御恩はいつか必ず……」


 そういうと団長は跪きオレの手の甲を自分の額に当てると、他の団員たちもそれに倣うかのようにオレに向かって跪く。えっ! 確かこれって自分の命をかけて恩に報いる意味があったはずだけど、自分の主人であるパトリシアさまの前でこんな事していいのか? 命を懸けるのは普通は自分の主人だけでしょ! それともただのお礼の意味なのか? 意図がわからず戸惑っていると、今度はパトリシアさまが護衛を引き連れてオレの下まで歩いてくるのがみえた。

 

「ケイ! よくやってくれました!」


「よくぞ、ご無事で」「ケイさま、お怪我はございませんか?」


 リオスさんとアメリアさんも、どうやら無事だったようだ。


「はい、おかげさまでどうにか無事でした! でも申し訳ありません! 致命傷はおわせたのですが、残念ながら取り逃がしてしまいました」


「それは飛んでいくホルトが見えたのでわかっています。それよりも誰も死なずにこの局面を乗り越えられたのはあなたのおかげです! お礼はまた改めてさせてもらうわ! それにしても……ホルトがあそこまでの魔術師だったとは思ってもいなかったわ。それでも騎士団では魔術師に対抗できない事が、死人も出さずにわかったのは不幸中の幸いだったと言えるかしら……早急な騎士団と魔術師師団の再編成と強化が必要ね」


「申し訳ありません! ケイさまがいなければどうなった事か……不甲斐ない限りで返す言葉もございません。責任は全て私が――」


「――辞任は許しません! そんなことよりも、今いる魔術師たちを拘束し牢に連れて行きなさい。それとホルトの指名手配書を早急に作って、冒険者ギルドにも協力を要請するように!」


「はっ! 畏まりました。おい、お前たち!」


 団長が指示を出し団員たちが急いで剣を拾って駆け出していく。魔術師たちは『俺たちはどうなるんだ?』と不安をもらす者はいたものの、抵抗もせず素直に指示に従い連行されていった。それを横目で見ながらパトリシアさまが溜息を吐く。


「ふ~っ……でも困ったわね! あの水晶が割れてしまっては魔術師の鑑定は難しいのよね……? リオス、とりあえず、いま起きた事に関してすべての者に箝口令を敷きなさい。違反した者は厳罰に処すともね……」


「はっ! 畏まりました」


「あの……皆さんちょっと待って頂けますか? 大事な話があるのですが、少しの間で構わないので人払いをお願いできますか? 話す相手はパトリシアさまにお任せいたしますので……」


 パトリシアさまはそれを承諾して団長とリオスさんを残した。オレは人払いがされ周囲に人がいなくなったのを確認して、レッドキャップの事は伏せてだが師団長について三人に話して聞かせた。

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