第120話 団長の奥の手
レッドキャップは弾き返された自らの魔法により左腕に大ダメージをおったのか、その腕は力なく垂れ下がり苦痛と憎悪の視線をオレに向ける。リフレクションは相手の攻撃を反射する効果があるのだが、返してる攻撃が明らかに相手の攻撃よりも強いんだよね。説明には書いていなかったから、もしかしたら神聖魔法のレベルが十なのが関係しているのかもしれない。でも今の所はこれぐらいしか反撃の手段がないのが厳しいな……。
「貴様、わかっているのだろうな! このままでは一族もろとも極刑は免れんぞ! さっさと武器を捨てて跪け!」
グレゴール団長が大きな声で投降を呼びかける。でも家族の処分を匂わせても相手はレッドキャップなんだよな……。案の定、レッドキャップはその言葉……というよりは団長には見向きもせず、腰の袋から瓶を取り出しそれを腕に振りかける。すると垂れ下がっていた腕は回復したのか、手のひらを握ったり開いたりして感覚を確かめている。
「なっ! あれ程の傷をいとも簡単に!」
ほ~っ! 初級のポーションよりは効果がありそうだけど、どのぐらいかな? 中級くらい? いやいや、そんな事を考えてる場合じゃない! 何か攻撃の手段を見つけないと……。
「団長さん、何か奴に大ダメージを与える手段とかってないですかね?」
「……あります! ですがその一撃をはなったら、その後の援護は難しいかと……」
えっ! そんな必殺技的なものがあんの? 駄目で元々と思って聞いただけだったんだけど……。
「分かりました。どちらにしても他に手段がないのなら、それに懸けるしかありません。私が奴の気を引くのでその隙をついてお願いします」
「……了解しました」
団長とオレは相手を警戒したまま小声で打ち合わせを終えると、レッドキャップを挟み込むように近付いて行く。どうやらレッドキャップは、オレにだけに注意を払い団長の事は無警戒のようだ。そこにすかさず団長が切り込む!
「ハッ!」
しかし、後ろから両手剣で攻撃したものの、片手に持つ大鎌で簡単に弾き飛ばされ地面に転がる。
「だ、団長!」「くそっ! 魔術師のくせにあいつは何なんだ……?」
団員たちが見守る中、団長は立ち上がり再び剣を構える。その団長に気を取られているレッドキャップに、今度はオレが魔法を放つ。
「ファイアボール」
レッドキャップは今度はそれを受けずに避けるように飛び退く。もしかしたら、さっきの怪我が頭をよぎったのかもしれない。オレの魔法は神聖魔法以外はレベルが一なんだけど、かなり警戒しているようだ。飛び退かれた分、距離があいてしまったので、再び挟み込む様にレッドキャップとの距離を詰めていく。
次の瞬間、団長が合図となる大上段の構えを取ったので、レッドキャップの気を引くために妖精の言葉を使い話しかける。
『おい! レッドキャップ! 目的は何なんだ!』
驚いているレッドキャップと目が合った瞬間、後ろにいる団長が叫ぶ!
「戦技! 鋭刃!」
両手剣が輝くオーラに包まれ、倍ぐらいの大きさの光る剣に姿を変える。そして大きく跳躍してその剣を勢いよくレッドキャップ頭に振り下ろしていく。どうやら団長さんのステータスに書かれてあった【鋭刃】というスキルが奥の手だったようだ。団長は魔法は使えないはずだけど、その剣には魔力が込められていた。
「ギィギィ~~~~っ!」
流石にこの技は片手では無理だと判断したのか、今度はしっかり両手で受け止める。そして素早く両手剣を上に跳ね上げると団長の胴に向かって大鎌をフルスイングする。
「プロテクション」
間一髪、オレの魔法が間に合い『キィーン』という金属音と共に、レッドキャップの大鎌が弾き飛ばされる。横目で飛んだ先を確認すると、その大鎌は石の壁に突き刺さっていた。あの武器! 一体、何でできてるんだ? 気になるところだが、まだ戦闘中なので再び視線を戻すとレッドキャップは杖に持ち替え、団長は剣に体重を預けて片膝をついている状態だった。
団長が動けないのは、きっと魔力を使いすぎたのが原因だろう。神聖魔法には魔力を譲渡する魔法もあるんだけど、直接、触れないと譲渡出来ないんだよね……。団長とオレの間にはレッドキャップがいるし、厳しいか……。
「団員の誰でもいいので剣を貸して下さい。近寄れないなら投げてもらっても構わないです!」
「お、お前が持って行けよ!」「いや、回復してくれる木もなくなってるし、またあの魔法をくらったら……」
こんな状況にも関わらず、団員たちが顔を見合わせて躊躇している。それを見てかなりイラっとしてしまい、思わず声を荒げる。
「誰でもいいから早く!」
オレがそう叫んだ途端に、複数の剝き出しの剣が一斉に回転しながらオレに向かって飛んできていた。
「――プ、プロテクション」
すべての剣が障壁に当たり地面に落ちる。焦った~ボケナス~せめて鞘に入れたまま投げろよ! キッっと団員たちを睨みつける。団員たちも自分たちのやった事に今更ながら気づいたのか、気まずそうに目をそらしている。ここで元の世界で聞いたある言葉を思い出す。『真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である』という言葉を……。
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