第119話 ホルト師団長

 庭にはどこからか持ってきたテーブルと椅子が置かれてあり、どうやらそこで鑑定をするらしい。そのテーブルに持ってきたガラス球を置き、パトリシアさまと一緒に椅子に座る。その周りにはパトリシアさまの護衛と騎士団員が三名ほどが立ち、不測の事態に備えている。




「これは一体どういう事なんでしょうか?」「私たちが何をしたというんだ!」




「「そうだ! そうだ!」」




 魔術師たちの質問や抗議を団長が一蹴する。




「黙れ! 誰が喋って良いと言った! これからこちらにいるケイ殿が、お前らが本当に魔法が使えるかを確かめて下さる。我が王国の法ではレンドール男爵家、つまり貴族に対する偽称、さらにはそれによる多額の給金をだまし取っていた詐欺罪、それらは全て極刑もしくは鉱山奴隷になる事が決まっている。身におぼえのある者は覚悟せよ!」




「そんな……」「騎士団は普段から我々を目の敵にしている。これは騎士団の陰謀だ! ホルト師団長も何とか言って下さいよ」




 へ~っ! あれがローラたちを鑑定していた魔術師の先生か……。大人しそうで人が良さそうなおじさんなのに、人は見かけによらないものだな……。




「ギギィ~~!」




 しかし、その大人しそうなおじさんが急に奇声を上げる。そして駄々っ子のように地団太を踏んで怒り始める。えっ? こわっ!




「えっ? 師団長?」




「ギギィ~~!」


 


 んんっ! これって……?




「おい! 貴様! 何をしている! 杖を地面に置いて跪け! ……まずい! 取り押さえろ」




 取り押さえに行った騎士たちと側にいた魔術師が、まとめて凄まじい爆発に吹き飛ばされる。砂煙が上がり団員たちの安否は分からない。周りを見渡すと近くにいたパトリシアさまとその護衛、さらに団長と数名の騎士は咄嗟にプロテクションの魔法を発動したおかげで無事なようだ。しかし、ガラス玉は地面に落ちて割れてしまった。まあ、直せるから良いんだけど……。




「こ、これは……?」




 パトリシアさまは自分の周りに突如あらわれた光の壁に驚いていた。




「これは私の防御魔法です。この中なら安全なので、パトリシアさまは決してここから出ないようにして下さい」




「は、はい」




 パトリシアさまの良い返事に思わず二度見してしまったが、すぐさま気を引き締め直していきなり魔法をぶっ放してきた師団長に視線を戻す。砂煙が収まると爆発に巻き込まれた血だらけの団員と、魔術師の真ん中にホルト師団長はニヤニヤしながら立っていた。その手にはどこから出したのか、大きな鎌が握られ肩に担いでいる。んっ? 杖はどこにいった?




 団長は両手剣を構えた状態で相手を視線にとらえたまま、オレたちだけに聞こえるように話をする。




「どういう事だ? あいつが使えるのは水魔法のはずだ」




 他の団員もそう認識していたようで首を傾げている。




「そんな事より怪我人の救出を急ぎましょう」




 オレはそう言うと素早く祈りと加護を発動し、さらにヒールスポットを作り出す聖樹の癒しも発動する。みるみる地面から金色に淡く輝く聖樹が生い茂り、怪我人に癒しを与える。それを見たホルト師団長が慌ててその聖樹を鎌で攻撃するが全てすり抜けてしまい、さらに魔法を放つもそれも聖樹の癒しには全く当たらずすり抜けてしまう。師団長は自分の思い通りにいかず、また地団太を踏んで怒りそして叫ぶ。やっぱり、あの叫び声! 絶対そうだ! でもここで正体をばらすとミドリンたちが風評被害にあってしまう。とりあえず正体はばらさずに様子を見る事にする。鑑定してみるとホルト師団長の正体はやはり、ゴブリン……正確にはその上位種? のレッドキャップであった。




「広域回復を使いました。団長さんは怪我人を安全な場所に移せるまで、私と一緒にあいつの相手をして下さい。それと意識を取り戻した団員さんに指示を! 他の団員さんは隙を見て意識がない人の救助を!」


 


「了解した!」「「「はっ!」」」




 それを聞いていたパトリシアさまも自分の護衛に指示を出す。




「私はケイの魔法があるから平気よ! あなたたちも怪我人の救出に向かいなさい!」




「し、しかし……」




「これは命令です」




「「はっ!」」




 パトリシアさま! 立派なご発言だけどオレの事を信用しすぎなのでは……? 大丈夫だとは思うけど、『信じてたのに……ぎゃ~』とかってなったら嫌だからプロテクションを一応、重ね掛けしておこう。あと大勢が入れるように大きめにしてと……。


 


「団長さん、意識を取り戻した団員さんに指示を」


 


「了解した……意識を取り戻した者は怪我人に手を貸し、パトリシアさまの下に向かえ!」




 意識を取り戻した者たちは朦朧とする中、団長の声に従いパトリシアさまの下を目指す。




「キャ~キャッキャッ!」




 しかし、レッドキャップが逃げる団員や魔術師たちを、満面の笑顔で鎌で切りつけていく。辛うじて聖樹の癒しの効果のおかげで致命傷には至っていないが、あれを止めなくては結局は誰ももたないだろう。


 


「ウォーターカッター」




 レッドキャップに魔法を放つが左手だけで受け止められてしまう。流石にレベルが低い魔法は効かないか……。どうやら手のひらだけに防御壁を作って受け止めたらしい。何それ? 省エネで凄いじゃん! すぐさまレッドキャップも魔法を飛ばしてくるが、さっきの防御壁の真似をして右手にだけリフレクションをかけ弾き返す。弾き返してくると思わなかったレッドキャップは、もろに自分の魔法をくらい爆発する。




「おお、これ良いかも! さあ、今のうちに防御魔法の中に」




「ありがとうございます」




 仲間に肩を貸した騎士たちがお礼を言いながら通り過ぎていく。どうやら全員がレッドキャップの近くから脱出できたようだ。血を流しすぎた人が朦朧としている様にみえるが、全員の傷はほぼ治ったと見て良いだろう。流石、高レベルの神聖魔法だけの事はあるな! でも回復は出来ても攻撃の術がない! どうすれば……。


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