第118話 第一騎士団 団長
算術の授業は一桁の引き算で思ったより時間が掛かった為、残念ながら筆算を教えるまでは授業を進める事が出来ずに終了となった。教師たちはとても残念そうにしていたが、あくまで子供たちの授業なので気にしないでおく。
「じゃあ、算術の授業はここまでとします。今日はこのまま、二人の使える魔法の属性を判定して終わりにしましょう。パトリシアさまも、ご一緒に近くでご覧になりますか?」
「……え、ええ! そうね!」
と言っても水晶玉に似せて作ったガラス玉を、テーブルの上に置いて鑑定するだけなんだけどね……。あっ演出で光魔法で光らせるのも良いかもしれない。パトリシアさまが隣の椅子に座ったの確認して、カバンから布にくるまれたガラス球を取り出す。
「なんと! 見事な!」「おお、何という大きさの水晶だろう!」「あれ程の寸分の狂いもない美しい水晶玉は見たことがない」「国宝クラスなのでは? いったいどれほどの価値が……」
あれ? 何か変な反応が……ただのガラス玉なんだけど……。
「え~と、それでは二人にはこの水晶に手を置いてもらって、その時に起きた変化を私が読み取り魔法の属性を判断いたします」
「という事は魔導具って事なのか?」「そんな魔導具、王都でも聞いた事がない」
「しかも魔法の属性を調べられる魔導具など、魔法知識の遅れている王国にとって喉から手が出るほど手に入れたい魔導具なのでは?」
まずいまずい! だから、ただのガラス玉だって! こんなものを献上とかする事になったら、詐欺罪で捕まっちゃうよ!
「こ、これは魔導具ではないです! はい……。 え~と、私が魔法の属性を判断する補助的な役割をするものですね……」
「なるほど……でも、水晶としての価値だけでも相当な……」
まだ何か言ってるのが聞こえたが、それは無視して話を進める。
「じゃあ、ローラから判定してみよう! え~と、ローラは何の魔法が使えると言われてたんだっけ?」
「私は風属性があると言われました」
「なるほど、じゃあこの球にそっと手を置いて、目を瞑ってゆっくり深呼吸してみよう」
ローラは大きな声で返事をするとガラス球に手を置いて目を瞑る。オレもそれっぽく見えるようにガラス球に手をかざして鑑定を始める。しかし、残念ながらローラには風属性は無く、他の属性の魔法も持ってはいなかった。
「残念ですがローラには属性魔法の適正はないようです」
「えっ! だって魔術師のホルト先生が……」
「え~と、そうだね! 見せた方が早いか……もしも風の属性がある人がこの水晶玉に触ると、こんな風な緑の光を放つんだ」
必死に食い下がるローラを納得させるために、自らガラス球に手を置いて光魔法で緑の淡い光を作り出す。それを見たローラは自分が本当に風魔法が使えない事に気づき、泣き始めてしまう。その瞬間、パトリシアさまは机を強く叩いて立ち上がるとリオスさんに大きな声で指示を出す。
「リオス! この城に住んでいる魔術師……自称魔術師たちを至急、庭に全員、集めなさい。あと騎士団に応援の要請を!」
「はっ! 畏まりました。行くぞ!」
リオスさんは数名に声を掛けると、急いで部屋を飛び出していった。パトリシアさまはローラを抱きしめて慰めながらオレにお願いする。
「ケイ! 悪いのだけど、この城で雇っている魔術師たちの選別をして欲しいの! もちろん、報酬は別に出すわ」
「……わかりました」
娘を泣かされた怒りか、魔術師たちに前々から思うところがあったのかは分からないが、すごい剣幕のパトリシアさまのお願いをオレは承諾せざるをえなかった。
♦ ♦ ♦ ♦
その後、アシュレイも鑑定したのだが、予想通り彼女も属性魔法の適正は持っていなかった。泣く子供たちを見て、パトリシアさまの怒りは頂点に達してしまったようだ。これって下手すると自称魔術師たちの首がとぶかもしれない。もちろん、物理的に……。
しばらくしてリオスさんから、庭に自称魔術師が集まったことを知らされる。
「それではケイ、行くわよ!」
「あっ! はい! わかりました! あの~一つ疑問なんですが、その人たちは魔術師ギルドの所属って事なんですかね?」
「一応、そういう事になるわね! でも、今のギルドはこの領の魔術師の人数を把握する為の施設にすぎないわね……」
リオスさんの補足によると、魔術師ギルドは本当に最近出来たばかりで王の直轄の組織らしい。しかし、この領に目ぼしい人材がいないのを知ると、大幅な人員削減がされ、登録試験もまともに行われなくなったそうだ。残った人員も研究職がほとんどで、日がな一日、魔導具の製作に没頭しているらしい。
ん~っ! 研究の片手間に自称魔術師も登録させちゃってるってこと? それじゃ、その適当に登録させてるそいつらが悪いんじゃないのかな? あっ! でも王の直轄だからそいつらを辞めさせたり、ギルドを潰したりは出来ないのか……。
庭に着くと金属製の鎧を着た男性が兜を脇に抱えて跪く。
「パトリシアさま、第一騎士団二十名、配置が整いました」
それを聞き庭を見渡すと、集められた魔術師たちを取り囲むように騎士団が配置されていた。
「ご苦労さま、今日はこのケイに偽魔術師をあぶりだしてもらうから、その連行と逃亡の阻止をお願いね! ケイ! こちらは騎士団の団長よ」
「初めまして、ケイ・フェネックです。よろしくお願いいたします」
「第一騎士団 団長を務めております。グレゴール・メンデルです。あなたの功績は伺っております。もし良ろしければ一度騎士団に来て、うちの団員をもんでやって下さい」
「えっ! それって手合わせってことですかね? 私は剣術に関しては全くの素人なので、見学ならお願いしたいのですが……」
「ほう、剣を携えていたと聞いたのですが……」
「あ~あれですか……絡まれないように持っていただけで……」
「…………なるほど、見学はいつでも歓迎ですので好きな時にいらして下さい! それでは偽物をあぶりだしに行きましょう」
うわ~っ! あの目は絶対に信じていないよ! 何かオレが剣術が使えるのを隠してると思ってそうなんだけど……。それにオレの情報が筒抜けなのも怖いわ~、いつも見られてると思って行動した方が良いかもな……。
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