第87話 未遭遇の魔物

 探索魔法で複数の魔物らしき反応が、こちらに向かって来ている事に気付いた。最初は魔狼かと思ったのだが、余りにもシルエットがずんぐりむっくりなので、未遭遇の魔物のようだ。慌ててニャンニャンに念話で連絡を取り合流する事にする。どうやら尾行してきていた冒険者は、ルーナとジュリアと対して変わらない初心者冒険者だったようだ。こちらの二人にも状況を説明して、ニャンニャンの下に一緒に向かう。




『ケイ様、早く来て欲しいのです。人族だと思ったらライカンスロープだったのです』




『えっ? ニャンニャン? ライカン……何それ?』




『あたちの姿を見たら、変身して襲ってきたのです。力が強くて拘束が解けてしまうのです』




『今すぐ行く、もう少し頑張ってて』




 変身? 良く分からないがライカンナントカに襲われて、シャドウバインドで拘束しているようだ。背の高い草をかき分けてニャンニャンの下へと急ぐ。




「なっ! オオカミ男……?」




 辿り着き見たものは、ニャンニャンによって拘束された顔が狼の獣人と、変身前だったのか人間の姿の女の子だった。それを見たジュリアとルーナの二人が大きな悲鳴を上げる。




『もう駄目なのです』




「アースウォール」




 大きな咆哮と共に獣人の拘束が解ける瞬間に、獣人の頭上に向かって囲む様に円錐状にいくつも壁を作り閉じ込める。オレの後ろで怯えている二人を大丈夫だと元気づけながら、ニャンニャンに状況の確認をする。




「ニャンニャン大丈夫だった? そっちの女の子は変身しなかったの?」




 鑑定してみた所、こっちの女の子は風魔法が使えるようだが、どうやら普通の人間だったようだ。




「その子は人間みたいだね。話を聞きたいから拘束をといてあげて」




「マルチナは私を守ろうとしただけなんです。なんでもしますから、許して下さい」




 その女の子は拘束がとけると、すぐさま獣人を助けて欲しいと懇願してきた。




「あの獣人は君の仲間って事でいいんだよね。でも解放するのは少し待ってもらえるかな? 今こっちに魔物の群れが向かって来てるから、そっちの対処もあるし、あの獣人をあの中から出して仲間が襲われたら、魔物の対処どころじゃなくなっちゃうからね」




「ぜ、絶対にマルチナはそんなことしないです。それに私の言う事は聞いてくれるので大丈夫です……だから出してあげて――」




「――ごめん! ここにいる子たちを危険にさらす事はできないから、魔物を倒したら出してあげるね」




 今も咆哮をあげながら壁を壊そうとしているあの獣人を、本当に外に出して大丈夫かは疑問だが、それは魔物を倒してから考えよう。とりあえず渋々だが納得してくれた女の子には、防御魔法プロテクションの半球体の中に入っていてもらう。




「とりあえず二人も防御魔法の中で待っていて貰って、出来そうだったらニャンニャンが魔法で拘束してくれてる敵を攻撃してみてよ! 怖くなったり危なくなったら防御魔法の中に戻れば安全だし……」




「わ、わかった」「わ、わかりました」




 二人には今後も森に入るからには、多少は戦いの経験を積んでもらうと伝えてあったのだが、流石にいきなり実戦では難しいかもしれない。




「え~と……こっちに向かってる魔物なんだけど、そこの岩ぐらいの大きさで、ずんぐりむっくりした感じなんだけ思いつく魔物って何かいる?」




「ん~っ! もしかしたら一角ウサギか、ブタネズミかもしれないのです」




「あれ? 確か一角ウサギなら依頼にあったな……」




 ニャンニャンの予想した魔物には、依頼に書いてあった魔物も含まれていた。




「ネ、ネコが……」




「ん?」




「ネコが喋った……」




「「あっ!」」




『ど、どうするです?』




「そ、そんな事より魔物が来るぞ! みんな、臨戦態勢を整えるんだ」




 ニャンニャンが喋った事は、戦闘のゴタゴタでうやむやにしてしまおう。










 ♦ ♦ ♦ ♦










 足音と共に草むらから魔物たちが姿を現す。




『やっぱり、ブタネズミなのです! 噛まれると麻痺したり病気になったりするのです』




『なるほど、あの子たちが咬まれないように魔物を拘束してあげて、余裕があったら呼吸が出来ないように口だけじゃなくて鼻も塞いでみて!』




『分かったのです。やってみるのです』 




 返事と共にニャンニャンの魔法が、魔物たちに絡みついていく。




「よし、拘束出来なかった魔物はオレが受け持つから、二人は拘束されている魔物を頑張って攻撃してみて」 


 


「わ、わかった」「は、はい」




 剣を抜き拘束されていない魔物と対峙する。しかし、大きな問題がそこにはあった。ブタネズミは見た目がとてつもなく可愛いのである。まるでウォンバットのような見た目で抱きしめたくなる。それに少し怯んでしまいジュリアたちに目を向けると、何故か三人で拘束されているブタネズミをタコ殴りにしていた。流石、魔物がいる世界で生きてきただけあって、魔物には容赦がない。中で待っててって言ったのに、獣人の仲間の女の子も木の棒を持って参戦していた。




 女の子たちが頑張っているの見せられて、オレも心を鬼にしてブタネズミに剣を振り下ろす。見た目に似合わず好戦的な魔物で、斬りつけられても怯まずに反撃してくる。剣での戦いは魔法とは違いスキルもないので、斬っても真っ二つとはいかず、どちらかというと突き刺した方が早く倒せるようだ。しかし、デメリットもあって突き刺すとなかなか剣が抜けない事が結構あった。結局、抜く間に襲って来たネズミは魔法で処理することになり、まだまだ剣だけでの実戦は難しい事を痛感する。それでも何とか拘束されてない魔物をすべて倒し終え、急いでニャンニャンたちの下へ走った。




『ニャンニャン! ごめん! 戦っている間に少し離れちゃったみたい! そっちは大丈夫?』




『問題ないのです。ケイ様の言う通りに噛まないようにするついでに、呼吸が出来ないようにしてみたら結構、倒せたのです』 




『えっ! ホント? ニャンニャン凄いじゃん』




『頑張ったのです』




 戻ってみると、倒れてる魔物をオーバーキル気味に叩いている三人の女の子の姿があり、その周りには多くのブタネズミが転がっていた。


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